[隠れた余剰次元とブレーン宇宙モデルの謎を解く]『ワープする宇宙』( リサ・ランドール )

リサ・ランドールの『ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く』(2007年)をようやく読破しました。


以下に所感をまとめました。

0. 『ワープする宇宙』

『ワープする宇宙』の著者リサ・ランドールは1965年6月18日生まれのハーバード大学の理論物理学者です。
プリンストン大学物理学部で終身在職兼をもつ最初の女性教授となりました。MITおよびハーバード大学においても理論物理学者として終身在職権をもつ初の女性教授として迎え入れられています。

リサ・ランドール(出典:美しすぎる女性物理学者

(以下はAmazonの商品の説明より引用)

宇宙は、私たちが実感できる3次元+時間という構成ではないらしい。そこには、もうひとつの見えない次元があるというのだ。
もし、もうひとつの次元が存在するのなら、なぜ私たちには見えないのか?そ
れは、私たちの世界にどう影響しているのか?
どうしたらその存在を証明できるのか?現代物理学の歩みから最新理論まで、数式を一切使わずわかりやすく解説しながら、見えない5番めの次元の驚異的な世界に私たちを導いていく。英米の大学でテキストとして使われている話題の著書Warped Passagesの邦訳。

(引用おわり)


Amazonのカスタマーレビューでは、4.2/5.0と高い評価を得ています。


著者リサ・ランドールは、美しすぎる女性物理学者としても有名です。

(本著の背表紙より)

が、本著は一般向け科学書とはいえ、その内容はまさにガチの物理学。ゲージボソン、ヒッグス機構、大統一理論、自発的対称性の破れ、などなど。。。

正直、あまりに難しい本だったので、ほとんど何も理解できておりません 笑

本書の前半部分は相対性理論と量子力学など現代物理学の基礎編として構成されており、ここを頑張って読破するだけでも現代物理学の概要を知ることができます。

そして、後半では超ひも理論、ブレーン宇宙モデルなど、発刊当時(2007年)の最先端トピックがわかりやすく解説されています(といっても私のような凡人には超難解)。

2007年は、高エネルギーの大型ハドロン加速器(HLC)が完成した年でもあります(実際の稼働開始は2008年9月10日)。

LHCは、物質に質量を与えた起源とされるヒッグス粒子の発見(2012年7月4日)で一躍有名になりましたが、過去には、極小ブラックホールを生成することから地球が呑み込まれて消滅する極めて危険な実験という噂が広がり、世界各地で反対運動も起きました(実際にはホーキング輻射で瞬時に蒸発してしまう)。

並行して超大作の『暴力の人類史』上下巻(合計1300ページ)を読んでいたこともあり、読破まで半年以上を要してしまった 笑

以下に内容を簡単に紹介します(以下太字は本文より引用)。

1. 空間の次元と思考の広がり

一般相対性理論から派生する「歪曲した幾何」

重力がほかの既知の力に比べてなぜこんなにも弱いのか。。。余剰次元は、これに解答を与えてくれるかもしれない

ある配置の時空構造では時空の歪曲がひどく大きいために、空間のある領域では重力は強くとも、ほかのところでは一様に弱くなってしまうことを発見した

大型ハドロン加速器(LHC)による実験で、カルツァ - クライン・モード粒子の痕跡が発見されるかもしれない

余剰次元が見つかれば、重力を含めた大統一理論が完成するようです。

本著の刊行は2007年ですが、2023年現在、LHC実験でカルツァ - クライン・モード粒子の痕跡が見つかったという報告はありません。

ブレーン宇宙モデルは間違っていたのでしょうか。。。?

「万物の理論の失敗」というサイトのように、D-ブレーンと重力波は本当なのか?と疑問視する投稿もあります。このサイトの場合は最終更新が2013年なので、重力波が実際に検出された(2015年)前の議論なのですが。

第1章 入り口のパッセージ - 次元の神秘的なベールをはぐ

きみは自分の道を進めばいい
自分の道を進めばいい
- フリートウッド・マック

本著の各章には、冒頭に必ずポップミュージック歌詞から引用が入っているのですが、これが70/80年代洋楽時代のものが多く、上の歌詞もフリートウッド・マックのアルバム『噂』に収録されている "Go your own way" でした。


高次元を低次元に置き換える方法はある、射影もその一つだ。しかし、射影されている対象物に存在する3番目の空間次元が、射影では失われてしまう


絵を描くとき、画家はつねに自分の見たものを射影画像に還元しなくてはならない

中世以降の画家は、絵に表現される情報の喪失を部分的に補正する射影方法を発達させてきた。そのひとつが、20世紀のキュービズム(立体派)という手法だ

第2章 秘密のパッセージ - 巻き上げられた余剰次元

巻き上げられた極小の次元が存在しているとしても、これを検出するのは至難の技だろう

アインシュタインの一般相対性理論における余剰次元

カルツァ - クライン宇宙の巻き上げられた次元の長さは非常に短く、プランク長さ、つまり10の-33乗センチメートル程度とされる

第3章 閉鎖的なパッセージ - ブレーン、ブレーンワールド、バルク

ブレーン、膜、スライス。。。なんだか言葉の定義があいまいですが、とにかく、空間の特殊な領域で、そこにある次元内ですべての粒子が閉じ込められている場所がブレーン=膜という認識でだいたい合っているような気がします。

バルク:ブレーンを含む全体の空間、ブレーンと違って全方向に伸びている

多次元宇宙では。。。ブレーンが境界となっており。。。そのブレーンは全体の空間より次元の数が少ない

ブレーンに閉じ込められた粒子は、物理法則によって完全にそのブレーンにとらわれている。ブレーンに拘束された物体は、そのブレーンの外に伸びる余剰次元には絶対に飛び出していかない。

つまり。。。我々人類は、ある限定された3次元空間のブレーンに拘束されており、外のブレーンには移動することは決してできないが、重力はブレーンに拘束されずに外のブレーンから我々人類が棲んでいる3次元空間のブレーンに影響を及ぼしており、それがダークマターやダークエネルギーの正体である。。。ということでしょうか??

重力は決してブレーンに閉じ込められない

一般相対性理論によれば、重力は時空構造に織り込まれている。したがって重力は空間のいたるところで、どの方向にでも働くはずだ

マルチバース(多重宇宙)、あるいはパラレルワールド


もし別のブレーンに生命体がいたとしても、その生き物はまったく別の環境に閉じ込められているわけだから、まったく違った力をまったく違った感覚で感知しているに違いない

私たちの感覚は、私たちを取り巻く化学反応と、光と、音を拾うように調整されている

別のブレーンでは基本的な力と粒子が違うはずだから、そこに生き物がいたとしても、私たちのブレーンの生き物とはほとんど共通点がないだろう

このSFのような想像力を掻き立てられるマルチバースという説は、以前読んだ宇宙本にもたびたび登場しました。


第4章 理論物理学へのアプローチ

ひも理論=トップダウン方式(プラトン):まず自分が正しいと信じる理論を出発点として、そこから実際に観測される乱雑な世界に見合うような帰結を演繹しようとする

モデル構築=ボトムアップ方式(アリストテレス):観測された素粒子とその相互作用のあいだの関連性を見つけることによって、その根本にある理論を導き出そうとする

アインシュタインは若いときはトップダウン方式で、晩年(一般相対性理論)のときはボトムアップ方式だったということですが、この2つの異なるアプローチは、(どちらも一長一短ですが)、理論物理学の世界だけでなく、俗世間にも汎用的に当てはまるものだと思います。

ビジネスでの仮説検証と市場調査、ひいては人の生き方そのものにまで。。。

ひも理論は、現在の装置を使って実験的に調べられるエネルギースケールの1兆倍の1万倍(1京倍)ものスケールで定義される理論なのである

著者のアプローチはモデル構築(=標準モデル)です。

本書で述べる余剰次元理論の美点のひとつは、両陣営の考えが合わさって、これらの理論を生んだところだ。

ここから素粒子物理学の基本についてが長いページに渡って始まります。。。

陽子:2つのアップクオークと1つのダウンクオーク
中性子:2つのアップクオークと1つのダウンクオーク


たとえば電子の質量は陽子の約2000分の1だが、電子とまったく同じ電荷を帯びたミューオンという素粒子は、質量が電子の200倍ある

偶然にも、電子の質量に関しては、先日中学生の娘の化学の勉強に付き合っていたときに、教科書に「電子の質量は陽子の1840分の1」と明記してあるのを見つけて驚きました。


素粒子物理学が進むと、将来の子どもたちの教科書には、クオークやミューオンといった記述や計算問題なんかが普通に入ってくるのかもしれませんね。

ゲージボソン:力を伝える


もはや、粒子加速器による実験で標準モデルの素粒子が探されることはない。それはもうすべて見つかった

既知の粒子の質量と重力の弱さを証明しようとすれば、標準モデルよりもさらに深い物理理論がどうしても必要になる

2. 20世紀初頭の進展

第5章 相対性理論 - アインシュタインが発展させた重力理論

ミューオンという素粒子は、電子と同じ電荷を帯びているが、電子よりも重い。ミューオンの寿命(崩壊時間)はたった100万分の2秒。=600mしか移動できないはず。

にも関わらず、6000m移動できるのは、光速に近い速度で動いているため、時間の遅れのため。

一般相対性理論

1.等価原理:加速による効果(慣性質量)と重力による効果(重力質量)は区別がつかない

F=ma

自由落下している観測者と、慣性系にいる観測者の運動の法則は等しい

2.光の重力赤方偏移
3.光の曲がり

時空構造(空間の三次元+時間の一次元)

宇宙にどれだけの物質とエネルギーが含まれているかがわかれば、宇宙の進化を計算できる

重力は光速で進む:重力が作用するには、瞬時には起こらず、そのまえに時空が変形しなければならないとわかった

第6章 量子力学 - 不確かさの問題

二重スリット実験

ハイゼルベルグの不確定性原理:「ある特定の二つの量(位置、運動量)を一度に正確に測定することはできない」

位置の不確かさと運動量の不確かさの積は、必ずプランク定数より大きくなる

電子ボルト 1eV イーヴィ

ウィークスケールエネルギー 250GeV

プランクスケールエネルギー  10¹⁹GeV

ボソン スピン1,2,3...(光子)
フェルミオン スピン 1/2, 3/2...1 (陽子、中性子、電子)

ボソンは同じ場所にいることができる

同じタイプ(スピン)のフェルミオンが二つ同じ場所にいることはありえない(パウリの排他原理)

なので物質は崩壊できない

3. 素粒子物理学

第7章 素粒子物理学の標準モデル


(以降も年末にかけて順次書き足していきます)

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