『モーガン・フリーマン 時空を超えて - 運命か? 自由意志か?』面白すぎる科学ドキュメンタリー番組


『モーガン・フリーマン 時空を超えて』は、かつてNHK Eテレで放送されていた科学ドキュメンタリー番組です。


宇宙の仕組みや謎について、毎回さまざまなテーマを取り上げて放送していました。司会(案内人)はモーガン・フリーマン。


そのなかで、今回は『運命か? 自由意志か?』(原題:Do We Have Free Will?)を紹介します。


モーガン・フリーマン


人間は自らの意志で人生の選択を行っているのでしょうか?それとも、人の運命は意志とは関係なく、予めプログラムされている不可避なものなのでしょうか?


興味の尽きないトピックですね。

1. 『モーガン・フリーマン 時空を超えて』

『モーガン・フリーマン 時空を超えて』は、ディスカバリーチャンネルのドキュメンタリー番組をベースに、テーマを抜粋してNHKのEテレ(教育チャンネル)で放送されていたシリーズです。

2016年から2018年まで2年間にわたって合計約60のエピソード(45分)が放送されましたが、残念ながら現在は番組は終了、NHKの公式サイトによると再放送予定はないとのことです(NHKオンデマンドにも未登録)。

そして、国内版はDVDなどのパッケージビデオで販売されていないのも大変残念です。

非常に良く出来たドキュメンタリー番組なので、是非とも再放送してほしいものです。


これまでに放送されたエピソードは、「Eテレ「モーガン・フリーマン 時空を超えて」 タイトル一覧」というサイトに詳しくまとめられています。

私は、自宅のレコーダーに録画したものをディスクに保存して、コツコツと観てきました。

録画・保存しているのは放送されたものの一部で、以下の18のエピソードです。

Season2
  1. パラレルワールドは存在するのか?
  2. 宇宙を支配する法則は何か?
Season3
  1. 宇宙は生きているのか?
  2. “無”とは何か?
  3. 悪は根絶できるのか?
  4. 潜在意識が秘める力
  5. 宇宙は永遠に続くのか?
Season4
  1. 太陽のない世界 人類は生存可能か?
  2. 他人の脳をハッキングできるか?
  3. 運命か? 自由意志か?
  4. 神が”進化”を創造したのか?
Season5
  1. “運”は実在するのか?
  2. 人間は神になれるのか?
  3. 影の宇宙は存在するのか?
Season6
  1. 時間を遡ることはできるのか?
  2. 私たちが存在する理由は何か?
  3. この世界は仮想現実なのか?
  4. 人はなぜウソをつくのか?
どれも興味を惹くエピソードばかりで、いつかブログ記事に。。。と思いつつ、何年もサボっていました 笑

今回は、Season4の『運命か? 自由意志か?』を以下にまとめてみました。

2. 『運命か? 自由意志か?』

私たちは自らの意志で人生を歩んでいるのでしょうか?
それとも運命にとらわれて生きているのでしょうか?
人間は定められたプログラムに従って生きているだけの存在なのかもしれません。
だとすれば、自らの意志で未来を変えることなどできません。

選択の自由は幻想なのでしょうか?
私たちに自由意志はあるのでしょうか?



オハイオ州立大学の心理学者、デニス・シェーファー


彼の実験によると、キャッチボールやフリスビーをキャッチする動作は、人それぞれで、頭で考える方法やアプローチが異なるにも関わらず、同じパターンを示すことがわかりました。


脳が考えるスピードよりも速く身体が反応しなければ、キャッチボールやフリスビーをキャッチすることはできません。


驚くべきことに、人間だけでなく、犬がフリスビーをキャッチするのも、人間に極めて似ていることがわかりました。


つまり、人はみな、キャッチするという行為を自分の頭で考えて実行しているつもりでも、実際には、脳の思考はほとんど行動に関係していないという事です。


本題に関係ないですが、撮影現場の紅葉が美しい。。。



神経科学者のジョン・ディラン・ヘインズ


被験者の両手にそれぞれボタンを押す装置を持ってもらい、映し出されるランダムな記号を見て、好きなときにボタンを押すか決めて押してもらう実験です。


脳がボタンを押すと決めるより前に、脳から脳波が出ているという実験結果


脳がボタンを押すと決めると、前頭前皮質の頭頂葉内側面という場所に反応が現れます。


しかし、脳がボタンを押すと決めた数秒前に、補足運動野という脳の部分が、先に反応を示すことがわかりました。


これは、脳が実際に「ボタンを押す」と決める以前のタイミングで、すでに「ボタンを押す」ことを無意識に決めている証拠です。


これは、人間の行動は、意識をする前から、無意識に決められているということを意味します。


ヘインズによると、人間の自由意志は、幻想に過ぎません。


カリフォルニア大学の認知神経科学者、マイケル・ガザニカ


彼は、人間の脳は極めて優れたコンピュータと考えています。


コンピュータが、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせであるのと同様、人間は、身体というハードウェアと、脳や思考というソフトウェアの組み合わせというわけです。


ガザニカは、人間には自由意志があると説きます。


たった一人の独立した人間という存在では、すべての運命は決まってしまうが、多くの人間がお互いに相互作用を及ぼす社会において、自由意志が生まれると考えています。


個人が社会のルールを無視して行動をして生きてゆくことはできません。社会のルールを守ったり、責任感を持つことで、自由意志が生まれます。


物理学者のショーン・ゴーリー


非線形物理学(流体力学など)の世界では、移動する群衆のなかの個人の動きは計算で求めることができません。


しかし、群衆を集団として捉えると、ある一定のパターンに従って動いていることがわかり、それは個人の意思とは関係なく、事前に定まっています。


例えば、人の流れのなかに、ある障害物(この場合はチケット売り場)があると、流れはランダムではなく、ある一定の規則に従ってよりスムースに流れることが知られています。


地域紛争における暴動や戦争といった人間の行動パターンにも、マクロ的には共通した規則を見出すことができます。


人が戦争に行くかどうかは、個人の自由意志で決めることができますが、戦場で生き延びることができるかどうかは、自由意志とは関係なく、予め運命で決められていると考えています。


しかし、個人の運命を事前に知るためには、膨大なデータが必要となります。


ミクロレベルでは自由意志を持つが、マクロレベルでは自由意志はないという主張です。


量子力学の世界では、不確定性原理により、物事の状態や動きを正確に決めることはできません。


ユトレヒト大学の物理学者、ヘーラルト・トホーフト


トホーフトによると、量子力学よりもさらにミクロな世界である、プランクスケールにおいては、物事の状態や動きはすべて2進法で、正確に決めることができると説きます。


プランクスケールでは、宇宙の起源から現在の事象は、すべて予め定められています。


プランクスケールでは、万有引力の法則、シュレーディンガー方程式など、多くの物理学の方程式が単純化され、時間・長さ・質量・電荷・温度の5つの基本単位が定義され、それぞれプランク時間、プランク長、プランク電荷、プランク温度というこれ以上細分化できない最小の単位として定義されています(Wikiより)


プランクスケールでは、宇宙の事象はすべて予め定められており、人間の自由意志の余地はありません。


サンノゼ州立大学の物理学者、ケン・ウォートン


アインシュタインの相対性理論の時空連続体では、現在は過去だけでなく、未来の出来事からも影響を受けています。


ブロック宇宙論とは、無数の宇宙が同時に存在しており、宇宙は4次元時空のブロックとして見られ、全ての出来事はその中にすっかり納まっていると考えられています。


ウォートンによると、この逆因果関係のために、人間には自由意志は存在しないと主張します。


フィルムのコマを逆方向に進む世界があるということですね。。。


カリフォルニア大学の神経科学者、ジョナサン・スクーラー


被験者に対して、自由意志があるかないかを説明したスライドを見せる


スライドのあとで、ダミーのテストを受けさせて、続いて正解を渡して自己採点をさせる。



「自由意志はある」というスライドを見た被験者は、自己採点の結果に応じてもらえるコインの数を、正直に取ってゆく。



一方、「自由意志はない」というスライドを見た被験者は、自己採点の結果に応じてもらえるコインの数を、実際よりも多く取ってゆく。


「自由意志はない」という考えは、人間のモラル低下につながることがわかりました。


スクーラーは、社会生活を送る上で、人間には自由意志があると信じること自体に価値がある、と説きます。


果たしてどちらが正しいのでしょうか?

3. まとめ

私たちは自らの意志で人生を歩んでいるのか、あるいは運命にとらわれて生きているのか、現在はまだ明確な結論は出ていません。

キリスト教カルヴァン派(プロテスタント)の予定説では、現生での行いがどのような善悪であっても、個人が死後に天国に行くか地獄に行くかは予め定められています。

予定説では、それを決めるのは「神」ですが、現代の研究では、それを決めるかどうかは「科学」に基づいた「法則」ということになります。

来世での運命がすでに決まっている決定論と違い、現世においても自由意志がないとしたら、我々は単なるロボットに過ぎないことになるので、このような考え方は一般には到底受け入れ難いものだと思いますが、科学者たちは、この問題に真剣に取り組んでいます。

脳が実際に「ボタンを押す」と決める以前のタイミングで、すでに「ボタンを押す」ことを無意識に決めている、という実験結果は大変興味深いと思いました。


人間の行動の全てではないにせよ、行動の一部は、確かに自分では「意志を持って決めた」と思い込んでいるだけで、実際には「意志に関係なく」決まっているのかもしれません。

プランクスケールの話は、難解な物理学を理解しないとSFのような世界でしかありませんが、量子力学自体がすでにSFのような世界なので、ひょっとしたらトホーフト(ノーベル物理学賞受賞者でもあります)の説くように、人間の行動だけでなく、宇宙で起きる事象はすべて予測可能なのかもしれません。

コメント