映画『ミュンヘン 』:イスラエルとパレスチナの抗争の実話をスティーブン・スピルバーグ監督が映画化

映画『ミュンヘン』は、スティーブン・スピルバーグ監督のミュンヘン・オリンピック時(1972年)に発生したイスラエル選手がパレスチナ過激派に惨殺された悲劇の実話を基に、その報復劇を映画化したものです。



現代史に基づいたドラマはどれも説得力があります。昔だと、カンボジアのポル・ポト政権を題材にした「キリング・フィールド」(1984)、エルサルバドルの軍事政権の「サルバドル」(1986)、そして最近ではルワンダの大殺戮の「ホテル・ルワンダ」(2004)、ケニアの「ナイロビの蜂」(2005)など、どれも力作揃いでした。

前半のテロリストによる急襲では、一度逃げ延びるものの、床に転がっているナイフを見つけ、思い直して仲間を救うためにわざわざ戻り、結局惨殺されてしまう選手のシーンがあります。スピルバーグ監督はこのシーンをアラブ調の音楽だけでセリフを無言にし、射殺シーンも直接見せずに血しぶきだけを映すという手法で、昨今の映画の露骨な暴力シーンの氾濫に一矢を報いています。

また、オランダ女性の殺し屋を報復で殺害するシーン(ジップガンというハンドメイドの銃器が使われます)では、ボートハウスでリラックスしている半裸の女性は、最後まで命乞いをするものの、無情に殺されてゆく過程で、最期は愛猫を膝に抱きかかえて息絶えます。非情な殺し屋でも、自分の最期を悟った瞬間は、実に人間味に溢れる反応をするものだと思いました。

オランダ女性の殺し屋

殺し屋を演じたのはMarie-Josee Croze(マリー=ジョゼ・クローズ)というカナダの女優です(Wikiはこちら)。

この「ミュンヘン」の特徴は、主人公が果たして自分の行為は正しいものかどうかを悩みながらも、敵からもそして母国のイスラエル政府からさえもじわじわと追い詰められる、いわば「やるかやられるか」という究極の状況に追い込まれてゆく過程を綴っているところにあります。

このように、生と死という生々しいテーマが中心の映画で、救いようがありません。

中東のテロをテーマにした映画には傑作が多いです。同じ黒い9月のテロ組織がスタジアムの観衆を狙う「ブラックサンデー」、ハイジャックされた乗客を奪還する「エンテベの勝利」、最近ではビンラディンの暗殺計画を基にした「ゼロ・ダーク・サーティ」が秀逸でした。「エンテベの勝利」と「ゼロ・ダーク・サーティ」は実話に基づいてるという点で共通していますが、イスラエルとパレスチナの抗争の歴史は、数々の映画の題材になっていますが、それが歴史の事実だということに戦慄を覚えます。

『ミュンヘン』は、私が(2000年以降)観た映画のベスト10のひとつです。


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