映画『ディアボロス/悪魔の扉』: 資本主義経済の悪魔は人間の心の中に潜んでいるのか

映画『ディアボロス/悪魔の扉』(1997年)は、悪魔との取引がテーマのオカルト・スリラー映画です。


先日、同じキアヌ・リーブス主演の悪魔映画『コンスタンティン』を観たので、そのつながりで10年ぶりくらいにもう一度観ました。


キアヌ・リーブスとアル・パチーノが初競演したサスペンス。ニューヨークに君臨する法律事務所から破格の報酬でスカウトされた新進気鋭の若手弁護士ケヴィン。意気盛んに法廷にも挑む彼に、虚栄に満ち、巨大な悪にまみれた、とてつもない“事件”が襲い掛かる(「Oricon」データベースより)。


[注意:以下はネタバレ満載の内容です]

1. 映画『ディアボロス/悪魔の扉』



あらすじ(Wikiより引用)

フロリダの敏腕弁護士ケヴィン・ロマックスは法廷での驚異的な無敗記録をニューヨークで買われ、大物弁護士ジョン・ミルトンの事務所に勤める事になる。

ある日上得意である不動産王アレキサンダーが妻と子どもを殺害した容疑で逮捕される。ケヴィンは裁判の準備で家に帰れない日が続き、妻のメアリー・アンは慣れない都会での孤独で次第に精神に変調をきたす。

ケヴィンは「妻の看護のためにしばらく休職してもいい」という上司ミルトンの誘いを断って、仕事に埋没する。メアリーは、ケヴィンの同僚の妻たちが実は悪魔だと言ったり、存在しない自分たちの赤ちゃんに子宮を奪われる夢を見たり、とメアリーの精神は確実に蝕まれていく。。。

予告編

監督:テイラー・ハックフォード
出演:キアヌ・リーブス、アル・パチーノ、シャーリーズ・セロン

この映画は、アンドリュー・ネイダーマンの小説『悪魔の弁護人』を原作としています。

Amazonのレビューは4.4と、『コンスタンティン』の4.2よりもさらに高い評価ですね。


監督のテイラー・ハックフォードは、過去30年間で10作品と非常に寡作な監督ですが、リチャード・ギアが主演した『愛と青春の旅だち』(1982)や、『Ray/レイ』(2004)など、多くの名作を生み出しています(『Ray/レイ』ではアカデミー監督賞にノミネート)。

主演のキアヌ・リーブスは、『スピード』(1994)で一躍スターの仲間入りを果たしましたが、『マトリクス』シリーズ(1999)に出演する前の時期でした。

一方、アル・パチーノは、この時期は名実ともに大スターであり、本作品への出演も、4度も断った末に承諾したと言われています。

映画の終盤でアル・パチーノ演じるジョン・ミルトン(歴史上の実在人物である『失楽園』のジョン・ミルトンと同じ!)が悪と善について大演説を振るうシーンが有名になりました。

Al Pacino's speech about God (The Devil's Advocate)

まあ、この映画に関わらず、アル・パチーノのスピーチシーンはどれも名演技ですが。

個人的には、『エニイ・ギブン・サンデー』での "inch by inch, play by play"のスピーチに最も感銘を受けました。

Any Given Sunday - one of Al Pacino's best speeches
(エニー・ギブン・サンデーより、アル・パチーノの名スピーチ)

アメフトの大一番の試合の直前にヘッドコーチが選手を鼓舞するスピーチなんですが、私自身はこのシーンで「チームワーク」についてすべて学んだ気がします。

今見てもこのシーンは実に感動的です。。。

話をこの映画に戻します。

シャーリーズ・セロンが、キアヌ・リーブスの妻メアリーを演じているのですが、初々しいなかにも、精神が崩壊してゆく悲劇の妻を見事に演じています。

シャーリーズ・セロン

その後、彼女は『モンスター』(2003)での壮絶な演技でアカデミー主演女優賞を受賞しました。
映画『モンスター』:シャーリーズ・セロンが空前絶後の凄まじい演技を見せる問題作

2. 見どころ

キアヌ・リーブス演じる敏腕弁護士ケヴィン・ロマックスは、依頼人の被告がどのような悪党であろうとも、自らの連勝記録を伸ばす野望のためには手段を選ばずに裁判で勝利を重ね続けるのですが、その姿は、現在の資本主義のダークサイドである格差社会の拡大と、過熱する競争社会を彷彿とさせます。


豪華なパーティのシーンでは、トランプタワーの最上階にあるドナルド・トランプ本人の邸宅がロケに使用されたとのことで、贅を尽くしたセッティングは実にリアルです(こちらの記事より)。

映画が製作された1997年は、日本ではバブル経済が崩壊したあとの時代ですが、ニューヨークの高級ショッピング街で2000ドルの洋服を試着しながら、「一度着ただけで、捨ててしまうのが快感なのよねー」と談笑する超リッチな夫を持つ若い妻たちの姿は、まさにバブル経済の象徴です。

試着室で、豊胸手術でキレイになった胸を自慢げに見せびらかす女友達の表情が、一瞬、悪魔のような形相に見えてしまうあたりから、シャーリーズ・セロン演じる純朴なメアリーは精神に異常をきたし始めます。


この映画のメッセージは、平たく言ってしまえば、悪魔=金儲け主義ということなのですが、悪魔は、悪の化身として人間を誘惑するのではなく、人間の心の内部に潜んでいるものなのです。

裁判の勝利を祝って夜の街に繰り出したケヴィンが、電話で「上司に誘われたら断れるわけがないだろう?誰のおかげで今の生活が送れていると思っているんだ!」と、早く帰ってきてほしいと懇願するメアリーに愛想をつかして電話をガチャンと切るシーンは、心に刺さりました(笑)。

ケヴィンは、ジョンと取り巻きの謎の美女と一緒に、マンハッタンのバーに繰り出し、フラメンコショーに飛び入りでダンスをして、テキーラをがぶ飲みして、美女を侍らせて夜を過ごすシーンは、資本主義・拝金主義の象徴です。

ミルトン法律事務所は、ジョンを含めて世界から超一流の凄腕弁護士を集めて、大口クライアントを顧客に抱えて、巨額の弁護報酬を得ているのです。


実は、ミルトン法律事務所は、裏では非合法なビジネスにも手を染めていることがわかるのですが、それよりも、ジョン・ミルトン自身が悪魔の化身であり、ケヴィンはなんと、ジョンの実の息子だったというのが映画のオチです。

道徳や良識を無視して、現生でひたすら金儲けをして、享楽にふける世界を築くこと(すなわち、人間を徹底的に堕落させ、神に背く)が、悪魔の目的でした。

アル・パチーノ演じるジョン・ミルトンが、前述の大演説でこう叫びます。

「天国で仕えるより、地獄で統治せよ」"Better to reign in Hell, than to serve in Heaven"

このセリフは、ジョン・ミルトンの『失楽園』から引用されています。

ストーリー展開は非常に緻密で、ラストシーンへつながる布石もしっかりしており、映画の完成度は非常に高いと思います。

ジョン・ミルトンの悪の誘いに対抗して、ケヴィンは、自由意志をもって、拳銃自殺するという選択を行います。

この自由意志というのがまた複雑です。

以前ブログにも書きましたが、人には果たして自由意志があるのか?


久し振りに観直して思ったのは、この映画の描く社会は、1990年代のバブル経済のときよりも、2020年代の現在のほうが、残念ながらより現実的になっているということでした。

資本主義が暴走し、消費社会が全世界に拡散し、ごく一部の超富裕層に富の集中が加速している現代社会というのは、まさにジョン・ミルトンという悪魔が理想とする社会。。。

映画のラストシーンでは、貪欲さを放棄した(ように見える)ケヴィンに、新聞記者の顔がジョン・ミルトンにモルフィングして変身しますが、それは、ケヴィンの心の中に、虚栄心(自惚れ)が芽生えたからですね。

貪欲も、虚栄心も、「7つの大罪」です。

3. 7つの大罪

7つの大罪」とは、傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰のことを指します(Wikiより)。

デヴィッド・フィンチャー監督の映画『セブン』(1995)でも題材になりましたね。

しかし、この「7つの大罪」は、キリスト教の正典である聖書の中では、直接に言及されてはいません。

現代の『カトリック教会のカテキズム』で、「七つの罪源」について、ヨハネス・カッシアヌスやグレゴリウス1世以来伝統的に罪の源とみなされてきたものとして言及されているだけなのです。

キリスト教では、具体的な罪のリストはありません。以下Wikiより引用します。

キリスト教でも罪は通常、禁止されている行為や不正とされている行為を行うことを意味するが、罪は特定の行為のみでなく、そのような行為や悪意を心に抱いている精神状態をも意味することがある。
口頭で行う不道徳、羞恥的、有害、異端とみなされるいかなる意見や言葉、行為も「罪深い」とされることがある。
また善行を行えるのに行わない事も罪とされることがある。

(引用おわり)

実際に罪を犯していない場合でも、そのような行為や悪意を心に抱いている精神状態を罪とみなすというのは、現在の司法制度の限界を象徴しており、興味深いです。

4. 不道徳な見えざる手

以前「不道徳な見えざる手」(ジョージ・A. アカロフ/ロバート・J・シラー共著、2017年)という本を読みました。


副題に「自由市場は人間の弱みにつけ込む」、とあるように、自由市場が如何に消費者をカモにして騙し続けているかという内容です。

広告業界、自動車、住宅、クレジットカード、食品、医薬品、金融市場全体、そして政治まで。。。

資本主義経済は、釣りとカモの経済で、如何にごまかしに満ちているかというのが本著の内容です。

これを読むと、現代の自由主義社会というのは、聞こえはいいけれど、悪魔が大喜びするような世界ですね。

5. 格差は心を壊す

こちらは最近読んだ本ですが「格差は心を壊す」(リチャード ウィルキンソン/ケイト ピケット共著、2020年)も、資本主義に基づく現代社会を批判した内容でした。


まあ格差といっても、「資本の格差」「教育の格差」「地域の格差」「身分の格差」などいろいろな格差がありますが。。。

しかし、世界のトップクラスの経済学者が、異口同音に「現在の資本主義経済はシステムとして間違っている」と指摘しているのは興味深いですね。。。

なぜ世の中はこのような不完全な経済システムで動いているのでしょうか?

映画を観て思うのは、現在の経済システムは2000年代に入っていよいよ機能不全が明確になってきた、ということです。

映画でジョン・ミルトン(悪魔)が、「21世紀はオレさまの時代だ!」と豪語していましたが、まさにそれが現実になったのは何とも皮肉です。

悪魔に付け込まれる人間の弱さや不完全さも、神の壮大な計画の一部であるとすると、我々人類はどこに向かっているのでしょうか。。。


これまでに映画レビューをブログ投稿したものを、自己採点ランキングごとに以下に総まとめ記事にしました。

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