デヴィッド・リンチの世界(その2)~「ブルー・ベルベット」「ワイルド・アット・ハート」「ロスト・ハイウェイ」

前回に続き、デヴィッド・リンチの世界(その2)です。「ブルー・ベルベット」「ワイルド・アット・ハート」「ロスト・ハイウェイ」の3作品を紹介します。

ちなみに前回の投稿(「デューン/砂の惑星」「マルホランド・ドライブ」「ツイン・ピークス」「インランド・エンパイア」)はこちらです。内容も一部補完しました。


* 以下ストーリーのネタバレがありますので、映画を観ていない方はご注意ください。

1.「ブルー・ベルベット」


「ブルー・ベルベット」

退廃的/官能的なサスペンス映画です。出演はリンチ作品ではお馴染みの面々、カイル・マクラクラン主演、ほかにイザベラ・ロッセリーニ(かつてのリンチの奥さんでした)、ローラ・ダーン、そして、デニス・ホッパーが狂気の殺人者を怪演しています。しかしカイル・マクラクランもローラ・ダーンも若い。。。役柄は大学生(!)ですから。

物語は平和な田舎町に潜む狂気を描いています。主人公は偶然道端に落ちていた人間の耳を見つけたことから倒錯した性と暴力のアブノーマルな世界に踏み込んでいってしまいます。

「この世は不思議なところだ」

主人公が何度も口にするセリフです。

「ブルー・ベルベット」という表題とは裏腹に、この映画の不快指数はかなり高いです。普段観たくない、目を背けたいものを無理やり見せられているような感覚。。。

映画を娯楽として鑑賞するのは、日常生活から乖離したファンタジーの世界に浸ることでストレスを解消するという目的があると思いますが、この映画はその真逆を強要させられます。

人妻のイザベラ・ロッセリーニを人目を忍んで抱く習慣から抜け出せなくなったカイル・マクラクランは、SMの世界に踏み込んでしまおうという自分を意識して悩みます。「ツイン・ピークス」のクーパー捜査官と違い、一線を超えず踏み止まるところが違いますが。。。

公開当時は全米の善良な市民から猛反発を食らったとか。。。しかしその後再評価されたそうです。犯罪王国のアメリカと違って、一見平和に見える日本ですが、残虐かつ偏執的な事件が後を絶たないことを考えると、この映画で描かれているような日常に潜む狂気というのは結構身近なものなのかもしれません。

ちなみにローラ・ダーンはスゴイ女優ですね。。。下はボーイフレンドに裏切られたと知ったときのショック 顔です。

ローラ・ダーン

個人的に印象に残ったシーンはここ。ピンクの洋服を着たブタのような醜態女が(なぜか)車の上で巨体をくねらせて踊ります。こんなシュールなシーンはなかなかありませんね。。。

このシーンです

もうひとつは、クライマックス近く、ドロシーの部屋のシーンです。一瞬時間が停止したかのような錯覚です(左の死体はなぜか直立不動)。

ドロシーの部屋のシーン

左のTV画面には顔を突っ込んで割れたような跡が、また奥のキッチンの壁には血糊がベッタリと。。。誰の仕業なのか映画では明確にされませんが、こんな残虐な仕業はデニス・ホッパーしかありません。しかし彼は一度去ったアパートに再び戻ってきます。しかも変装して。。。

このシーンだけが唯一解釈不能ですが、リンチの作品にしては、時系列もストレートで難解な場面も少なく、そういう意味ではリラックスして鑑賞することができる作品ではないでしょうか。


2.「ワイルド・アット・ハート」


「ワイルド・アット・ハート」

Amazonでは「バイオレンス・ラブ・ロマンス」と紹介されています。この作品はなんと、1990年カンヌ国際映画祭のパルム・ドール(最高賞)を獲得した作品なんです。

ニコラス・ケージ(セイラー)が主演です。主演女優はまたまたローラ・ダーン(ルーラ)が。二人の愛の逃避行がテーマですが、前編過激なラブシーンのオンパレード。。。正直胃がもたれます。

セイラーとルーラの愛の逃避行

この映画、全編を通して炎(体に燃え移った炎、タバコ、自動車事故)とド派手なレッド(衣装、ルーラの母親の顔のペンキ)が頻繁に出てきます。すべてが意図的に過剰に演出されているのですが、「ツイン・ピークス」やその後の作品に共通する「超常現象的な人知を超えた力」といった幻想的なシーンが出てこないので、個人的にはちょっと残念です(箒に乗った滑稽な魔女は出てきますが)。

後半にいきなり現れる悪役にウィレム・デフォー(プラトーンのエリアス軍曹)が。「ブルー・ベルベット」のデニス・ホッパーと同様、強烈な存在感です。最後は警官にあっけなく撃ち殺されてしまいますが。。。

ウィレム・デフォー

ルーラの母親(ダイアン・ラッド、この役でアカデミー助演女優賞にノミネート)は、アメリカ女性の一番醜い場所を象徴するような存在で、不快感抜群!暴力、セックス、嫉妬、策略、なんでもありの存在ですね。いやー観ていて本当に虫唾が走ります。。。

ところでこのダイアン・ラッドとローラ・ダーンって、映画で母娘の役柄ですが、現実でも本当の母娘なんですね。。。ちょっとビックリです。

改めて観直しましたが、うーーんこれがパルム・ドールかぁ、ストーリーもひねりがないしリンチ作品にしてはあまりピンと来ないです。。。

3.「ロスト・ハイウェイ」


「ロスト・ハイウェイ」

こちらは「マルホランド・ドライブ」と同じ「謎解き」映画です。たぶん1度観ただけではストーリーも含めてなんのことやらサッパリ。。。だと思います。

おおざっぱなストーリーはこんな感じです。

前半は人妻殺しのミステリーから死刑宣告、刑務所収監まで、ところがある日突然、収監されている受刑者がまったくの別人(行方不明だった若者)に入れ替わってしまい、本人も過去の記憶がなく、保釈されてからは、マフィアの愛人と逃避行のために犯罪に手を染めて。。。

この映画を理解する鍵は、リンチ自ら語っているように、かつて米国中を震撼させた「O.J.シンプソン事件」です。

O.J.シンプソン

O.J.シンプソン事件。。。1995年の春だったと思います。アメフトのスーパースターであり、映画俳優としても大成功を収めた黒人のO.J.シンプソン、彼の元妻とその友人が自宅近辺で惨殺された事件で、状況判断からして犯人はO.J.シンプソンであることは誰もが確信したのですが、カリフォルニアの陪審員制度と黒人差別問題を巧みに利用して、O.J.シンプソンは、無罪判決を勝ち取ってしまった事件を指します。

リンチはそこに、犯罪者の「心因性記憶喪失」という特徴を持ち込みました。つまり、犯罪者の心理として、自分が犯した残虐な殺人を抽象化して、あたかもそれが自分自身から遊離した客観的な事件として捕えることで、日常の正気を保つことができるというわけです。

「マルホランド・ドライブ」で、自ら犯した罪の深さに耐えきれず、自殺するヒロインとは対照的な犯罪者の特徴でしょうか。

ビル・プルマン演じる主人公フレッドはまさにこの「心因性記憶喪失」であると理解すると、前半のストーリーはすべて彼の妄想であることがわかります。

この映画には、顔が白塗りの薄気味悪い男(ミステリーマン)が度々登場しますが、「マルホランド・ドライブ」のカウボーイを彷彿させます。彼はやはり実在の人物というより、主人公の心理状況の象徴として解釈するのが自然のようです。

ミステリーマン

このミステリーマンとあわせて全編不気味な雰囲気が漂っていますが、音楽を担当しているのがなんとナインインチネイルズとマリリンマンソンなんですね。。。

ナインインチネイルズはインダストリアル・ロックの大御所で、最近では映画「ソーシャルネットワーク」でも楽曲を提供しているほどのメジャーなバンド(というかトレントレズナーの単独プロジェクト)ですが、この当時(1997年)は、代表作「ダウンワード・スパイラル」を発表した後の一番ノッている時期だけあって、楽曲のクオリティも最高です!

ちなみにナインインチネイルズについては、その来日公演ライブについての記事を以前書いたことがあります。こちらです。。。

話が脱線してしまいましたが、主人公フレッドの美しい若妻レネエ(パトリシア・アークエットが好演)は、かつて人に言えないようなヤバイ職業(ポルノ女優)についていたことがあり、それが疑惑を呼び起こして、主人公は嫉妬のあげく愛妻の殺人に至ってしまうというのが読み筋ではないかと思います。

レネエ役のパトリシア・アークエット

フレッドが獄中で一晩にしてピートに入れ替わってしまうあたりから話は急転し、観ているこちら側の理解も付いていけなくなります。。。その後もピートとフレッドは何度も入れ替わってしまい、さらに映画の意味不明度は増してしまいます。

ピートとフレッドが「心因性記憶喪失」の二重人格であることは容易に理解できるのですが、実在の人物だったのはフレッドだったとすると、ピートの人物設定(マフィアのお気に入り自動車整備士、そのマフィアの愛人かつポルノ女優がレネエ)は一体どのような意味があるのでしょうか。。。?

うーーん難解です。。。

ところで、この映画のテーマは何でしょうか?

O.J.シンプソンのような怪物を生み出してしまった現代社会(特にハリウッド社会)への痛烈な批判なのか、それとも社会の犠牲になった女性への鎮魂歌でしょうか?

「マルホランド・ドライブ」のダイアンと違って、この映画では、惨殺されたレネエの無念に感情移入することは厳しいです。むしろ、結婚して幸福な人生を歩んでいたはずのフレッドのほうに同情してしまいますが。。。

まだまだ読みが足りないようですね。。。

再び関係ない話ですが、ジャックの父親役でゲイリー・ビジーが出演しています。彼はかつて「ビッグ・ウェンズデー」というサーフィン映画(素晴らしい名作)で3人のサーファー役のひとりで出演していたのですが、こんなところで見かけるとは意外でした。。。!どうやら私生活でもゴタゴタが多かったらしく、結局大成しなかったようで残念です。。。

ゲイリー・ビジー

「ロスト・ハイウェイ」は、リンチ作品には珍しく、出演者に常連俳優はほとんど出てきません。マフィア役のロバート・ロッジアくらいでしょうか。


しかし今回改めて観ましたが、リンチ作品を立て続けに行くと、こちらの正気も失われてしまいそうです。。。本当は「イレイザー・ヘッド」「エレファント・マン」そして「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」もレビューしたかったのですが、ここまでで尽きました。。。

(おわり)

(2015.07.11 追記)

デヴィッド・リンチの世界(その3)~「イレイザー・ヘッド」「エレファント・マン」「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」を投稿しました。




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