映画『DUNE/デューン 砂の惑星』:ヴィルヌーブ監督の映像美でリメイクされ、新しく蘇った『デューン』の世界


映画『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021年)を観ました。

フランク・ハーバートの壮大なSF小説『デューン』の映画化で、デヴィッド・リンチ監督の『デューン/砂の惑星』(1984年)のリメイク版です。

新作は、『ブレードランナー2049』『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーブ監督、主演は『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ、その他も豪華キャストの超話題作。


個人的には、リンチ監督の『デューン/砂の惑星』を猛烈に高く評価しているため、このリメイク版には複雑な心境でした。
映画『デューン/砂の惑星』:SF映画史上に燦然と輝く賛否両論渦巻く超大作

が、時代は移り変わるもの。

古いものにばかり固執せず、すべての邪念を捨て去って、新作を鑑賞することにしました。

この際なので、フランク・ハーバートの原作と比較することも極力封印。

するとどうでしょう。。。

155分の長尺にも関わらず、最初から最後まで夢中になって堪能することができました!

ヴィルヌーブ監督の世界観でリメイクされたDUNEは、全く新しく蘇った作品として、これはかなりの傑作ではないでしょうか??

もちろん、細かい点ではいろいろ言いたいことがありますが(笑)

以下に、映画『DUNE/デューン 砂の惑星』の、どこよりも早い?レビューを書き記します [注意:ネタバレ満載の内容です]

1. 映画『DUNE/デューン 砂の惑星』


あらすじ(Wikiより引用)

遠い未来、レト・アトレイデス公爵は、宇宙で最も価値のある物質である『メランジ』の唯一の供給源であるデューンとしても知られる危険な砂漠の惑星アラキスの管理権を受け入れる。

メランジは人間の寿命を延ばし、超人的なレベルの思考を提供し、超光速の旅行を実用的にするスパイスである。

公爵はその機会が宇宙皇帝らによって仕組まれた複雑な罠であることを知っていたが、彼は公爵の愛妾のレディ・ジェシカ、息子で後継者のポール、そしてアラキスの最も信頼できるアドバイザー達を連れて行く。

公爵は巨大な砂虫(サンドワーム)の存在によって危険にさらされているスパイス採掘作業を管理しているが、敵の襲撃によってポールとジェシカはアラキスの原住民であるフレーメンに導かれるのだった。。。。

予告編

監督:ドゥニ・ヴィルヌーブ
出演:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ハビエル・バルデム、シャーロット・ランプリングほか
音楽:ハンス・ジマー

ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の代表作は、やはり『ブレードランナー2049』『メッセージ』の2つのSF映画ではないでしょうか。。。

特に、『ブレードランナー2049』は、ハリソン・フォードのあの名作『ブレードランナー』(1982)のリメイク版を見事に成功させました。

個人的には『ボーダーライン』(Sicario)がヴィルヌーブ監督の最高傑作ではと思っています。

出演俳優陣の豪華さは凄まじく、いちいち紹介していたらキリがないのですが。。。

ティモシー・シャラメは、『君の名前で僕を呼んで』で、年上男性と恋に落ちるゲイ役でオスカー主演男優賞候補になった若手俳優

(出典:Wiki)

レベッカ・ファーガソンは、(個人的には)シャイニングの後日譚『ドクター・スリープ』の魔女役が印象的だったスウェーデンの女優

ハビエル・バルデムは、何と言っても『ノー・カントリー』の偏執的な殺し屋が忘れられない怪優(奥さんはペネロペ・クルス)

ジョシュ・ブローリンは。。。代表作が多すぎですが、敢えて選べばハビエル・バルデムと同じ『ノー・カントリー』

シャーロット・ランプリングは、『愛の嵐』(年がバレる)からの超ベテラン大御所

オスカー・アイザックは、『スターウォーズ』続3部作のやんちゃな飛行士ポー・ダメロン役で有名

。。てな感じでしょうか。

2. 観終わった感想

以下思い付くままですが。。。

良かった点
・ヴィルヌーブ監督の世界観を見事に反映した映像美
・オーニソプター(羽ばたき式飛行機)がカッコイイ!
・フレメンの戦士との決闘シーン(重要)がカットされずに残った
・ハルコンネン男爵が、『地獄の黙示録』のカーツ大佐にソックリ 笑

オーニソプター(出典:9gag.com)

イマイチだった点
・ユエの葛藤、レト公爵の無念さなど、一部の重要人物の心理描写に乏しい
・ポールの夢に、スパイスやサンドウォーム、水よりも、女性ばかりが登場する
・ポールがあまりに華奢で、ガーニーやフレメンの戦士と互角に戦えるのは不自然
・パイターとフェイドはどこに行ってしまった?

あ。。。やっぱり原作やリンチ版と比べてますね 笑

映画館での3時間はあっという間に過ぎました。

3. ヴィルヌーブ監督の世界観

本作の最大の見どころは、ヴィルヌーブ監督の世界観・映像美に尽きるのではないかと思います。

また、音響効果は特筆すべき出来栄えで、ベネ・ゲセリットの魔女たちの繰り声(からくりごえ)は、思わず身震いしてしまうほどのド迫力。

映像と音響はシアターでしか体験できない特典ですね。

その点では、ヴィルヌーブ監督の『ブレードランナー2049』と、映画の造りが非常に似ています。

偶然なのか、旧作『ブレードランナー』の日本語の看板や広告といったゴチャゴチャとしたから、『ブレードランナー2049』のモノクロ調の沈んだトーンとの対比は、旧作『デューン/砂の惑星』のグロテスクな描写のオンパレードから、やはりモノクロ調の沈んだトーンに徹した本作と共通しています。

(出典:Twitter

本作は、映像に「赤」がほとんど登場しません。

戦闘シーンや殺戮シーンであれほど生身の人間を斬りまくっているのに、不自然なほど血しぶきが飛ばないのです(『ブレードランナー2049』と違ってPG13だからか??)

唯一「赤」が表現されるのは、ポールの夢のなかでの剣先くらいなものです。

対照的に、フレメンの眼の「青」は、かなり引き立てられているように上手く演出されていました。

舞台が砂漠の惑星なので、カラフルな描写が少ないのは当然なのですが、やはり、意識して映像をモノトーンに抑えているのではないでしょうか。

ただ、あまりにモノトーンでクールなので、惑星アラキスの昼間が50度を超える灼熱地獄だというのがあまり実感として伝わってきません 笑

また、全編を通しての無機質的な音楽(というより音響効果)も、『ブレードランナー2049』と本作の共通点です。

ハンス・ジマーの音楽は相変わらず素晴らしいのですが、映画を象徴するようなテーマ曲・メロディがないのは個人的にはちょっと物足りない気がします。

まあこれは好みの問題ですが。。。

4. フレメンの戦士との決闘シーン

フレメンの戦士がポールとレディ・ジェシカをかくまうことを納得せずに、ポールと決闘をするシーン。

(出典:screenrant

このシーンは、リンチ監督の旧作ではカットされてしまったシーンでした(後に発売された長尺版DVDでは復活)。

この決闘シーンは、その後ポールがフレメンの救世主「ムアディブ」に昇りつめるうえで重要な位置づけとなります。

5. ハルコンネン男爵

ハルコンネン男爵が『地獄の黙示録』のカーツ大佐(マーロン・ブランド)に喋り方や存在感がソックリという点。

ハルコンネン男爵(出典:IGN Japan

本作の役柄としては、狡猾な策士というよりは、冷徹なラスボスというイメージになっています。

悪役もただひたすらワルというのでは面白くありません。

本作では、ハルコンネン男爵がレト公爵に「ハルコンネン家とアトレイディス家は何百年もの間殺し合いを続けてきた」と言います。

確か原作では、アトレイディス家もハルコンネン家と同じくらい血に染まった歴史があったはずで、一方的にハルコンネン家が悪というわけでもありません。

ダース・ベイダーだって、過去にいろいろあって悪の道に進んでしまったように、ハルコンネン男爵にも複雑な過去を背負っているというシナリオに今後展開すると、作品により深みが増すのではないでしょうか?

ちなみに原作では、レディ・ジェシカは、驚くことにハルコンネン男爵の実子なんですよね。

そのハルコンネン男爵が、治療中の黒い液体からヌーッと顔を出すシーンは、これまた同じ『地獄の黙示録』のウィラード大尉(マーティン・シーン)が、沼地に身を潜めて、真っ黒な顔を泥から出すシーンを彷彿させます。


ところで、ハルコンネン男爵より、甥のラバンのほうが存在感があったと感じたのは私だけでしょうか? 笑

ラバン(出典:IGN Japan

6. ポールの夢

ポールの夢には、いろいろなものが現れます。

なかでも、スパイスやサンドウォーム、水という3つの要素は、アラキスに関連して非常に重要なのですが、本作ではなぜかフレメンの若い女性(チャニ)ばかりが登場します。

チャニ

映画なので、恋愛要素は大切なのはもちろんなのですが、前半のストーリー的には、スパイスやサンドウォーム、水という3つの要素のほうが重要なのですが。。。

特に、スパイスに関しては、物語の決定的な要素であるにも関わらず、サラッと説明されるにとどまっています。

なぜこれほどまでに貴重な産出物なのか?

ギルド航海士がスペースワープをするために摂取が必要だとか、何千年にも渡って服用した結果、ミュータント化しているといった点は割愛されています。

DUNEを初めて観る人は、なぜスパイスを巡って総力戦で争うのか疑問に感じるのでは?

以下は余談ですが、リンチ版DUNEのチャニは『ブレード・ランナー』のショーン・ヤングが演じていました。

リンチ版のチャニ

そうです。。。ヴィルヌーブ監督の『ブレードランナー2049』のレイチェルも、同じショーン・ヤングが演じているのです。

レイチェル

こんなところにリンチ監督とヴィルヌーブ監督の繋がりがあって興味深いですね。。。

さて、水に関しては、映画の序盤の至るところに比喩的に登場しており、良い伏線になっています。


そう言えば、映画の始まりは、ポールとジェシカが食事中に「水を取って」というやり取りからでしたね。

7. その他

その他で印象に残ったのは、究極の悪の対象がハルコンネン家ではなく、帝国軍であること、その帝国軍を破るためにフレメンと共闘すること、ポール自身が帝国皇帝シャダム4世の跡継ぎがいない(娘だけ)ので、婿養子として自分自身が皇帝になることを示唆している点です。

特に、父親の意志でもあったフレメンと共闘戦線を張ることに焦点が置かれているのは、現代の国際社会で「連携」を重視している世論にも迎合しています。

また、ユエ役が中国人俳優だったり、皇帝の使節やフレメンの女性が黒人だったり、多様な人種を起用してより国際的なマーケットを意識しているのも、スターウォーズをはじめ最近のハリウッド英語に共通した特徴だと感じました。

ヴィルヌーブ監督と

ところで、原作や旧作を知らずに、全くの予備知識ゼロで観たらどうでしょうか?

一緒に誘った友人(ほぼ予備知識ゼロ)は、「途中で睡魔が襲ってきた」と言ってました 笑

8. 続編への期待

巷では、DUNEは3部作で完結するとか、いや興行成績によっては2部作にまとめられるなど、いろいろな憶測が流れています。

個人的には、3部作にすると、次回のPart.2が見せ場が少なくなってしまうので、2部作に落ち着くのではと予想します。

ちなみにハーバートの原作は

第1作『デューン 砂の惑星』 Dune (1965)
第2作『デューン 砂漠の救世主』 Dune Messiah (1969)
第3作『デューン 砂丘の子供たち』 Children of Dune (1976)
第4作『デューン 砂漠の神皇帝』 God Emperor of Dune (1981)
第5作『デューン 砂漠の異端者』 Heretics of Dune (1984)
第6作『デューン 砂丘の大聖堂』 Chapterhouse:Dune (1985)
第7作 Hunters of Dune (未訳) (2006)
第8作 Sandworms of Dune (未訳) (2007)

と、壮大な8部作になっています(ハーバート本人による執筆は第6作まで)。



旧作で個人的に最も気に入っていたシーンは、ポールが父の復讐を誓いフレミン族の救世主として成長していくところでした。

"Father! One day the sleeper will awaken."

とポールが夜空に向かって叫ぶシーンは特に感動的でした。

原作ではポールが精神的・肉体的に大成してフレメンのリーダーにのし上がる過程が記述されています。
華奢なティモシー・シャラメが次作で俳優として大成できるか(リーダー格の雰囲気を出せるか)、真価が問われると思います。

本作ではあまりに華奢過ぎるのでは?と思えるポールですが、次作では、苦難を乗り越えて成長する過程が描かれるはずなので、大いに期待です。

本作では登場しなかったフェイドも次作では満を持して登場か?

いやはや。。。新しい『DUNE/デューン 砂の惑星』は、予想を上回るなかなかの傑作だと思います。

(2021年10月16日 追記)
出た!
封切翌日のニュースをチェックしてみると。。。あるわあるわ『DUNE/デューン 砂の惑星』への絶賛・美辞麗句の嵐。。。

例えばこちらでは「評論家4人が満点」だそうです 笑

米国のIMDbでも、8.4と高評価(『エイリアン』『レイダース』『カサブランカ』などと同じレベル)。

逆に、【悲報】『DUNE 砂の惑星』、クソつまらなかったんだが……、のようなサイトも相変わらず 笑

個人的に最も質の高いレビューだと思うのはこちらです。

同調圧力の特に強い日本では、もう『DUNE/デューン 砂の惑星』の悪口を言ったら袋叩きに合うこと間違いなし。『ボヘミアン・ラプソディー』を思い出すなぁ。。。

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