[命綱なしのクライミング: フリーソロの世界] アレックス・オノルドの映画と自伝の衝撃

究極のスポーツクライミング「フリーソロ」を題材にしたドキュメンタリー映画「フリーソロ」を観ました。


アレックス・オノルドという米国人のフリーソロクライマーが、ヨセミテ国立公園にある「エル・キャピタン」という900mの絶壁を、ロープも器具も一切なしで、登頂に成功した前人未踏の偉業を映画化したものです。

フリーソロの世界に関わる人々(アレックス本人、恋人のサンニ、友人たち、撮影陣、母親など)のインタビューを通して、フリーソロの世界観を見事に浮き彫りにしており、大きな衝撃を受けました。


映画を観て、アレックス・オノルドの自伝『ALONE ON THE WALL アローン・オン・ザ・ウォール 単独登攀者、アレックス・オノルドの軌跡』も読みましたが、オノルドのプロクライマーへの軌跡がより詳細に記述されており、またクライミングというスポーツについての理解も深めることができました。

私は山登りもクライミングもやったことがないのですが、フリーソロを取り巻く人々の人生感には、強烈な魅力を感じます。

(以下、映画のネタバレがありますのでご注意ください)

1. フリーソロとは

「フリーソロ」というのは、命綱など安全確保道具を一切使わず、1人で断崖絶壁を登る、まさに究極のフリークライミングのことです。

命綱といった安全確保器具がないので、ひとつでもミスをして墜落したら、確実に死につながります。身体能力・経験・精神力・度胸および冷静な判断が全て揃ってる超人でないと無理な究極なスポーツです。

クライミングといっても様々な種類がありますが、ボルダリングに代表される屋内のスポーツクライミングと、屋外の岩を上るロッククライミングです。

クライミングの基礎知識についてYF Clubというサイトで簡単に調べてみました(以下サイトから引用します)。

フリークライミング
 岩の決められた(あるいは自分で設定した)ラインを、自分の手と足だけを使って、ロープにぶら下がらずに、登りきることを目標としています。登るための道具は、専用の靴とすべり止のチョークのみ、ロープは、安全確保(力つきて落ちてしまった場合にはロープにぶらさがる)と下降のために使用します。道具に頼らず、ロープにぶら下がらずに登りきってはじめて、完登(成功)とみなされます。フリークライミングは、冒険性とスポーツ性をかね揃えた形、すべてのクライミングの原点でもあります。ルートの難しさは、ホールドの大きさ、動きの難しさ、肉体的困難度、で決まります。

登り方①:トップロープクライミング
 あらかじめ、岩の上にセットされたロープを体に装着して、クライミングを行います。万が一、力尽きて落ちてしまっても、ロープにぶら下がるだけなので安心です。なるべく危険を排除しているため、登ることに集中でき、主に初心者の練習用として用いられます。

登り方②:リードクライミング
 プロテクション(岩に打たれたボルトや岩の割れ目にセットしたカム類など)にロープを掛ながら、登るスタイルです。フリークライミングのルートのほとんどは、このスタイルでの完登を前提としています。トップロープと違い、長い距離を落ちる可能性もあるので、確かな知識と技術が必要です。また、ビレイの方法もトップロープとは、若干異なり、ビレイヤーにもより確かな技術が求められます。

登り方③:ボルダリング
 ロープを使用せず、飛び降りることが可能な高さの岩(通常は、4〜5m以下)を登るクライミングのことです。使用する道具は、クライミングシューズとチョーク、衝撃を吸収してくれるマットのみと、よりシンプルなスタイルです。しかし、岩場でのボルダリングは、地面が平らでない場合も多く、着地の方法など、より高い危機回避能力が求められます。

マルチピッチクライミング
 ロープの長さ(50〜60m)以上のルートを登るクライミングのことをマルチピッチクライミングといいます。何十メートルもある岩壁を、ロープスケール分を1ピッチとして、複数のピッチに分けて、2人一組(あるいは3人)で、リードとフォローを繰り返して登っていくシステムです。上にロープを延ばしていくためのロープワークやフォロアー(二番目以降に登ってくる人)のビレイ、ビレイポイントのセット、懸垂下降(ロープを伝って降りる方法)技術など、様々な知識と技術が必要になります。 アルパインクライミングはこのシステムで、ロープを上に伸ばしていくため、必須の技術といってよいでしょう。また、フリークライミングのマルチピッチルートもあり、システムはアルパイン、フリーともに変わりません。

アルパインクライミング
 山頂に立つことを目標にして、そのためには、登る手段を選びません。登れないところが出てきたら、道具を使ったり、ロープにぶら下がったりしても、そのルートを登りきれば成功となります。頂上に立つルートとしてロッククライミングをするわけですから、登山の要素も入ってきます。長時間のクライミング、気象の変化、山奥でのクライミング、落石など、自然条件による危険度も増し、より冒険性の高いクライミングとなります。岩を登る技術が高いほど、体力温存、時間短縮につながるので、フリークライミングの技術は欠かせないといってよいでしょう。また、ロープの長さ(50〜60m)以上の岩を登っていくわけですから、 マルチピッチクライミングの技術も必要です。

(引用おわり)

クライミングの技術や器具は時代とともに高度化しているのですが、フリーソロは、器具を一切使わない点で、最も単純で分かりやすい(そして最も危険な)スタイルといえます。

ロッククライミングは危険極まりないスポーツで、やっている人の気が知れません。。。映画「クリフハンガー」や「バーティカル・リミット」の墜落シーンは恐怖そのものです。




「フリーソロ」を知ったのは、ナショナルジオグラフィック誌に特集されていたのを読んだのがきっかけでした。

2. 映画「フリーソロ」

映画「フリーソロ」は、エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チン監督による2018年のアメリカ合衆国のドキュメンタリー映画である。ロッククライマーであるアレックス・オノルドの2017年6月のエル・キャピタンへのフリーソロ・クライミングでの挑戦の様子がまとめられている(Wikiより)。

第91回アカデミー賞、長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しています。


以下、ナショナルジオグラフィック誌の公式サイトからストーリーを引用します。

2016年、春
伝説的な絶壁エル・キャピタンには、あらゆるクライマーが怖じ気づくほどの難所がいくつもあった。アレックスはフリーライダーと呼ばれる約975メートルのルートを攻略するには“正確な地図”が必要だと考え、憧れの存在であるベテランのプロクライマー、トミー・コールドウェルとともに現地でのトレーニングを開始する。実際にそのルートを登ってみると何が起こるのか。どのポイントが最も恐ろしいのか。その具体的なイメージを掴むため、ロープを使って登攀を試みるアレックスだったが、途中で「足を痛めた。パンパンに張って、手も痛い」と手強い感触を打ち明ける。プロクライマーとして成功を収めた後も家を持たず、移動手段でもある愛車のバンで寝泊まりしているアレックスには、サンニ・マッカンドレスという恋人がいる。「一世一代の大きな挑戦を前にしたら、恋人よりそちらを優先させる」と考えるアレックスにとっても、明るい性格のサンニは「彼女は僕の人生を豊かにしてくれる」というかけがえのない存在だった。

2016年、夏
エル・キャピタンへの挑戦に備え、アレックスはモロッコのタギアでの練習に励んでいた。彼に同行するジミー・チンは『MERU /メルー』などの山岳ドキュメンタリーで知られる映像作家で、彼が率いる撮影チームは全員が熟練のクライマーだ。2009年からアレックスと交流を深めてきたジミーは、究極の夢に向かって突き進むこの友人の勇姿をカメラに収めようとしていた。ジミーが語る。「フリーソロの撮影には葛藤が付きものだ。ソロは非常に危険だし、撮ることでプレッシャーを与えてしまう。滑落の瞬間を捉えてしまうかもしれない。最悪のシナリオを想定し、葛藤を抱えながら撮影に臨まなければならないんだ」。

2016年、秋
エル・キャピタンに戻り、練習に明け暮れるアレックス。そんなある日、序盤の難所フリーブラストから9メートル下に滑落した彼は、足首に捻挫を負ってしまう。これがサンニと付き合い始めてから2度目のケガだった。常人には理解しがたい危険を冒し、完全なる達成感を追い求めるアレックスと、穏やかで幸福な生活を望むサンニは、お互いの考え方を尊重しているが、人生の価値観がまったく異なっている。ふたりをよく知るトミーは、「彼らの関係は本当に素晴らしい。しかし危険なフリーソロには、感情に“鎧”がいる。恋愛感情はその鎧に悪影響を及ぼす。両立はできない」と懸念を抱いていた。それでも入念に準備を重ねたアレックスは、いよいよエル・キャピタンでのフリーソロ実行を決意する。ジミー率いる撮影隊も細心の注意を払い、アレックスの邪魔にならないようカメラポジションを決定していく。ところが夜明け前に始まったそのフリーソロは、呆気なく中止された。以前滑落したフリーブラストに差しかかったところで、アレックスが突然引き返してしまったのだ。ケガの影響なのか、精神的な問題によるものか、それとも大勢の撮影クルーの存在が気になったのか、理由は判然としない。かくして偉業への挑戦は翌年に持ち越された。

2017年、春
極限の恐怖にも動じない平常心を手に入れるために、アレックスはエル・キャピタンへの再挑戦に向けて黙々とリハーサルを重ねていく。アレックス、ジミー、サンニは、撮影がフリーソロに及ぼす影響について率直に意見をぶつけ合う。「周囲に人がいるなら、さらなる準備と自信がいる。自分が万全なら平然としていられるはずだ」と語るアレックス。そして6月3日の早朝、アレックスはひとり無言でエル・キャピタンへと歩を進めていく。それは人類史上最大とも呼ばれる歴史的な挑戦の始まりだった……。

(引用おわり)

予告編

以下、実際の映画のスクリーンキャプチャを交えて内容を紹介します。


「いつ死ぬか分からないのは皆同じさ」

アレックス・オノルドの一言一言が、胸に響きます。


「登ることで”生”を実感できるんだ」


ヨセミテ国立公園のハーフドーム登頂は、アレックスを一躍世界的に有名にしました。


オノルドはこれまで1000回以上フリーソロを経験していますが、もちろん1回も失敗していません(失敗したら即死)。


凄まじいまでに鍛え上げられたこの筋肉を見よ!


オノルドは果たしてどれだけ厳しいトレーニングを日々積んでいるのでしょうか。。??

オノルドは決して向こう見ずで危険なフリーソロを場当たり的にやっているのではありません。

事前に、時には何年もかけて、綿密なクライミング計画を練っているのです。

彼のノートには、現場の一つ一つのホールドの状態や場所などすべて記録されており、それを繰り返し覚え込むことで、リスクを最低限に抑えているのです。


サンニ・マッカンドレスは彼のガールフレンドです。
この映画でも重要な役割で登場し、たくさんのインタビューを受けています。


いつ愛する人が死んでしまうかもしれないという現実と向き合って生きてゆく術を語ります。表面的なインタビューではなく、ここには真実しかありません。


ジミー・チン監督をはじめ撮影陣の葛藤についても痛いほど伝わってきます。


それもそのはず、彼らのほんのミスが、オノルドを死にやってしまうかもしれないからです。


岩壁に引っ掛けている足場は、あってないような微小なもの。こんな微笑な場所に命を預けているのです。


常に死と直面する世界だからこその、真実の世界。


フリーソロの先駆者は半分以上が墜落死しています。






ウイングスーツでの飛行事故で亡くなったディーン・ポッターは最近の出来事で記憶に新しいですね。


オノルドは、決して社交的な性格ではありませんが、フリーソロで鍛えられた精神力は誰にも劣りません。



彼の死に対する恐怖心の欠如を科学的に検査する試みも紹介されました。


恐怖に対する脳の活性化がみられないという事実が立証されています。



ヨセミテ国立公園のエル・キャピタン登頂がこの映画のハイライトです。

エル・キャピタンは、アメリカ合衆国カリフォルニア州、ヨセミテ国立公園内にあり花崗岩の一枚岩としては世界一を誇る大きさ(約975メートル)で、ロック・クライミングの聖地として知られています。


オノルドが墜落しないことを承知して観ていても、あまりの映像の迫力に緊張と恐怖で目を逸らしたくなるほどです。


サンニもオノルドの母親も、葛藤する心境をカメラの前で暴露します。これは建前ではなく、本音だと思います。



エル・キャピタンを前にして何を思うのか。。。


撮影隊や、事前準備に協力するクライマーたちも、ジレンマに陥っています。


世間の「死をも恐れぬ頭のボルトが抜けている」といイメージとは全く正反対に、常に冷静に自分の実力とコンディションを分析し、とことんまで準備を突き詰める姿には、感動してしまいます。



なぜそこまでして目指すのでしょうか??


いよいよエル・キャピタン踏破の挑戦です。
まずはロープをつけて徹底的に事前調査をやります。


フリーブラストは前回の挑戦を諦めた場所です。


この映画は、実写とグラフィックの融合が素晴らしいです。



ボルダープロブレムは、終盤の最大の難所です。



直角の壁に両手両足を踏ん張って上ってゆくのはまさに想像を絶するテクニック。。。




「空手の蹴り」で最大の難所「ボルダープロブレム」を試すシーンは、(ロープがあるので墜落死しないとわかっていても)観客を緊張の極限に追い込みます。


何度も失敗を繰り返す箇所をフリーソロでトライするって、もう狂気としか思えません。。。


オノルド自身も命を賭けていますが、クルーたちもある意味命を縮めて撮影を敢行しているのが伝わってきます。




オノルドがフリーソロを決心した日にサンニに伝えるシーン。淡々としたやりとりだけに、ここはマジで泣けます。




出陣前にオノルドの髪を切るサンニ。静かなシーンです。


オノルドが語ります。

「誰でも幸福に安住できる」


「幸福な世界には何も起きない」


「そこにいても何も達成できない」


この考え方こそが、オノルドのフリーソロをやって生きる価値観を象徴しています。


撮影隊の事前準備も真剣そのもの、欧米人たちが集まってこれほど真剣な目つきで話し合っているのを見たことがありません。。。


サンニは自分の意志で、フリーソロの当日は実家?に車で帰省します。
トレーラーを出るときは、ごく普通に「じゃあまた」と別れますが、車中では涙が止まらないサンニ。


オノルドは、フリーソロを決心して現場に向かう心境を、武士やジェダイなどの戦士に例えていますが、自分の命を賭けるという点で一切誇張はありません。

オノルドは夜明けとともに静かに登頂を開始。いよいよ命を賭けた大勝負の始まりです。


監督のジミー・チンがそれをクルーに伝えます。


本作の監督兼プロデューサーのジミー・チンは、彼自身世界的なプロクライマーであり、世界最難のビッグウォールに挑んだ『MERU/メルー』(2015年)というドキュメンタリー映画では主演を務めています。




『MERU/メルー』も素晴らしいドキュメンタリー映画です。

映画は、素晴らしいアングルでのショットが連続します。ドキュメンタリー映画として最高レベルの画質ですね。


地上から撮影するクルー。



撮影は他にもヘリコプターやドローンなどを駆使してます。



文字通り一発撮りのなか、こんなシーン一体どうやって撮ったのでしょうか??



オノルドの速いペースにジミーチンも驚きを隠せません。



フリーブラストスラブ、序盤の難所に来ました。


難所が続きます。




モニターを正視できない撮影クルー


そして。。。ここからいよいよ映画のクライマックス、難所中の難所、ボルダープロブレムです。


ロープありでこれまで何度も滑落した個所、今回のフリーソロで失敗して墜落死する可能性の最も高い場所です。




「空手の蹴り」を選択、このシーンは戦慄を覚えるほど恐ろしいです。




オノルドの脚の動きに時間が止まったような錯覚を覚えます。


撮影クルーたちも緊張のピークに


見事にホールドを確保して成功。。。!


オノルドはその瞬間


"Oh Yeah!"と言って子供のような笑顔!


最大の難所、ボルダープロブレムを無事に生きて通過して、安堵の雰囲気が漂います、が、まだ油断は禁物。


エンデューロ・コーナー、ここまで来たらもう「まさかの失敗」は耐えられません。




(フリーソロの撮影など)「二度とやるもんか」と悪態をつくクルー、痛いほど気持ちが伝わってきます。


岩の割れ目に手を入れていれば、墜落の可能性は低いので、ここは堅実に進みます。



そして、ついに踏破!!



「また会えたね」(文字通り)


人類史上に残るほどの偉業を達成した直後なのに、笑顔がひょうひょうとしています。
疲労感のかけらも見せません。凄過ぎ。。。



3時間56分も上り続けて、ただの一つもミスをしないというのは、凄まじい集中力としか言いようがありません。

このドキュメンタリー映画は、手に汗握るスリル満点のエンターテインメントなのですが、それ以上に、すべてが真実のヒューマンドラマの最高レベルでもあります。

これまで何千本も映画を観てきましたが、こんな素晴らしいドキュメンタリー映画は滅多にありません。

こちらの映画情報サイトにあるような「今もっとも“死”に近い最恐ドキュメンタリー」なんて薄っぺらい宣伝文句は不適切ですね(記事の内容は良く書かれていますが)。

この手のサクセスストーリーでは必ず付いて回る「みんなの力に支えられて」とか「かくかくしかじかに感謝」云々の月並みなコメントは皆無、淡々と事実だけが綴られて映画は幕を閉じます。

真実は何よりも勝る。。。メディアで日々垂れ流されている情報の99.99%はゴミですが、このような素晴らしい映画があるとは。。。まだ世も捨てたものではないですね。

3. 自伝『アローン・オン・ザ・ウォール』

映画を観て大きな衝撃を受けた私は、さっそくオノルドの自伝を読んでみました。



以下アマゾンの書籍紹介を引用します。

「極限のフリーソロ、最速のスピード登攀、ピオレドール受賞……今、クライミング界で最も気になる男の初の著書! 史上最強のソロクライマー、アレックス・オノルドの自伝」

「これまでのクライミングの常識を覆して、驚異的なフリーソロの記録を出し続けてきたアレックス・オノルドが半生を振り返り、自らのクライミング哲学を語る」

極めて困難なショートルートから、長く気の抜けないビッグウォールまで、「落ちたら確実に終わり」の世界を生き続け、さらにアルパインクライミングで2014年、
フィッツ・ロイ トラバースを成し遂げてピオレドールを受賞した、今、最も熱いクライマーの初の著作。

命綱を使わないフリーソロクライミングの天才として、世界的に有名なアレックス・オノルド。オノルド本人が、これまでのクライマー人生で成し遂げた、最も重要な7つのクライミングを回想する。

回想を通じて、世界有数の絶壁を脅威のスピードで登頂する彼の精神力や技術に迫るとともに、極限スポーツのさらなる極限に挑み続ける29歳のロッククライマーの人物像を描きだす。

共著者は、自身も登山家で山岳ノンフィクション作家として知られる、デビッド・ロバーツ。

(引用おわり)

2016年に刊行されているので、オノルドがエル・キャピタンのフリーソロを成功させる前年までの物語です。

構成は、オノルド自身により供述と、デビッド・ロバーツの客観的なコメントが交互に織り込まれていて読みやすいです。

また、日本語訳の堀内瑛司さんは、クライミングの経験が豊富なので、非常に適切な訳となっているのも特筆です。

生まれ育った家庭環境や、フリーソロをやるきっかけ、大学進学と中退、ガールフレンド(ステイシー・ピアソン、映画のサンニ・マッカンドレスとは別人?)との出会いと長年に渡る交際関係など、映画では詳しく触れられなかったオノルドの若い時代の私生活についても詳しく記されており、アレックス・オノルドという人物を理解するきっかけになります。

また、フリーソロで世界を巡ったときに、チャドで貧困の極みを目の当たりにして、財団を設立、自身の収入の1/3を寄付しているエピソードなど、オノルドの「質素・倹約・効率を大切にする」側面が伺えます。

過去に墜落死した偉大なクライマーたちについてもその偉業と非業の死について詳しく紹介されています。

逆に、上の世代の保守的なクライミングスタイルとの軋轢など、ここまで正直に書いていいのか。。。とこちらが心配になるほど愚直に記されています。

文章の信ぴょう性は高いので、巷に溢れる自画自賛のキレイごとだらけの自己満足的な自伝とは次元の違う説得力があります。

しかし、クライミングのシーンの記述になると、私のようなクライミングの知識をまったくもたない読者にとっては、読み進めるのは容易ではありませんでした。

本編を読み始めて、いきなり専門用語だらけの文章でまったく読み進められません。。。

そこで、「図解ひとり登山」というサイトの山の用語集を参照して、読み進めることにしました。

最初の2ページだけでもクライミングの専門用語がたくさん出てきます。トラバース、スラブ、レッジ、ロープスケール、ランジ、ホールドなどなど。。。(意味不明は用語は、ブログの末尾にまとめて列記しました)

しかし、この本の素晴らしいところは、フリーソロ実践のテクニカルな解説が丁寧な点です。

いくつかの専門用語を理解すれば、私のようなクライミングの素人であっても、具体的にクライミングやフリーソロのテクニックやノウハウについて深く知ることができます。

対照的な例として、「アドベンチャーレースに生きる!」という本があります。アドベンチャーレースの第一人者がレースの魅力や過酷さをわかりやすく紹介した貴重な書籍なのですが、チームメンバー間の軋轢や協力という人間関係が中心で、レースの実践に関しての記述がほぼ皆無なのです。



人間ドラマに焦点を当てた良本ではあるのですが、アドベンチャーレースの具体的な困難度やスキルに関して知りたいという要望には応えてくれませんでした。

この本を読んでクライミングの理解を少しでも深めれば、映画「フリーソロ」でのオノルドの動作を分析して、ただ単に「怖い」とか「危なそう」といった漠然とした印象から、どのような動作が難易度が高いのか、またそれはなぜかということの理解が深まります。

この自伝を読むと、アレックス・オノルドのフリーソロという生き方から刺激を受けて、何かを得ることができるのは間違いないと思います。

4. フリーソロと人生論

オノルドの真剣勝負の人生観には強烈に惹かれるものがあります。

(私自身も含めた)一般の凡人が、日常生活で「生死を賭けて」何かをやるというのは、まず有り得ないことでしょう。

しかし、大いなる犠牲を払って、綿密な計画を立てて、何か大きなことを達成するために真剣勝負するということは、結構あることだと思います。

それが、一般人には理解しがたい途方もない目標となると、果たしてどうでしょうか?

家族や友人に反対されてまで、自分の信念を貫いて何かを達成するということは、現実にはあまりないのかもしれません。

逆に、そのような途方もない目標を持って邁進している人は、他人からは変人扱いされたとしても、本人は極めて幸せではないでしょうか?

映画のなかで、オノルドの無邪気な笑顔が忘れられません。あんな表情は、ごく当たり前の生活(オノルドの言う「幸福な世界」)に埋没してしまった世間一般人にはないものです。

経済成長が人類の幸福に繋がると信じて邁進する現代社会人。

しかし、行動心理学の原理によって、いくら裕福になっても物質的な富から解放されず、幸福を感じることのできない人間の性。。。

[人間ははたして経済成長を超えて進歩できるか] ダニエル・コーエン著「経済成長の呪い」書評

オノルドは、簡素なキャビンでの生活を続け、アルコールは一切口にしません。

生活に最低限必要なものだけで、あとは全て切り捨てています。

彼の姿からは、人はどう生きるか?という根本的な問題提起を突き付けられたような気がしました。

5. 本編に出てくる用語の意味

トラバース
斜面を水平に横断すること

スラブ
表面に凹凸が少ない滑らかな一枚岩。 のっぺりとしていて、手がかりが少ないため登るのは難しい

レッジ
岩の段差で、片足または両足でやっと立てるくらいの広さのもの

ビバーク
緊急時に山小屋を利用せず、テントやツェルトあるいは石室や雪洞などを利用して簡易的な野宿をすること

ロープスケールにしてxピッチ
ロープの長さ(50〜60m)以上のルートを登るクライミングのことをマルチピッチクライミングという。何十メートルもある岩壁を、ロープスケール分を1ピッチとして、複数のピッチに分けて、2人一組(あるいは3人)で、リードとフォローを繰り返して登っていくシステム

ランジ
どうしても届かないホールド、足の届かないホールドがあるときに使用する動き。次のホールドが遠くはなれているため壁面でジャンプして次のホールドをとらえる

ホールド
手がかり、足がかり

デポする
荷物の一部又は全部を山小屋や登山ルートの途中に置いておくこと

トップロープ
トップロープ・クライミングとは クライマー(登っていく人)が上からのロープで確保される練習的な携帯で、墜落を伴わないので初心者でも安心してクライミングに挑戦できる

ミニトラクション
落っこちた人を引き上げるときにプーリーを使って楽に引き上げるシステムを作るときには逆戻り防止機能を別に付ける必要がある。ミニトラクションはその機能がはじめから付いているプーリー

パンプ
前腕がパンパンに張ってきますね。 こういった特定の筋肉がパンパンに張ってくる現象、これがいわゆるパンプアップ=パンプ

ピトン
ピトン=ハーケン=ペグ
岩壁の割れ目に打ち込む金属製のくさびのこと

ナッツ、カム
クラック、リス、フレークなどの自然な岩の形状に沿わせてカムやナッツやフックを自分でセットする確保支点をナチュラル・プロテクションと呼ぶ。カムやナッツ類が代表選手であるが、使用頻度が高いのはカムである。

ビレイヤー
ビレイとは、クライマーがクライミングロープに張力をかけて、落下するクライマーがそれほど遠くに落下しないようにするためのさまざまなテクニックを指します。クライマーが登る際にビレイ(安全確保)する人のことを「ビレイヤー」と呼び、通常二人一組で登ります

ダイレクトエイド
打ち込んだボルトを直接つかんだり、ボルトにカラビナを介してアブミ(テープ状のスリングや金属のステップを作った縄梯子)などを使ってクライミングすることの総称

アブミ
テープ状のスリングや金属のステップを作った縄梯子

カラビナ
開閉できる部品がついた金属リングで命綱を固定するためのもの

YDS(ヨセミテ・ディシマル・システム)
難易度1 ~ 5.15にグレードされている

ボルダリングのムーブであるレイバック、ニーバー、ステミング

レイバック
レイバックはコーナーの縁やクラック、ホールドが縦方向に並んでいるときに使用するムーブ。両手でホールドを引き、両足でフットホールドを押しながら登っていきます。体重を背中側にしっかりとかけることで、体全体で突っ張ることができ安定します

ステミング
壁の形状がとても重要になってきて壁の角のところで凹角になっているような壁で両足を開いて突っ張るようにして体を固定します

ニーバー
ニーバーはホールドとホールドの間に足を突っ張るようにして挟み込み、体を安定させるムーブ。しっかりと決まれば両手を離すことができ、レストにも最適です

チムニー
岩壁に縦に走っている全身が入るくらいの幅の割れ目

トポ
フリークライミングなどで使われているルート図。岩場の絵や写真にルート名やグレードが載っています。topography[地形・地勢]の略称

スメア
クライミングの足使いは、大きく分けると「エッジング」と「スメアリング」のふたつです。細かいカチッとしたホールドにシューズの端で乗る足使いがエッジングで、ソールをベタッと置く使い方がスメアリング

クリンプ
人差し指の第一関節を深く反らすように持つのがクリンプ

ちなみにロッククライミングの世界には、アレックス・ホノルドの他にもうひとりのアレックスがいます。

彼の名前はアレックス・メゴス。

ドイツのロッククライマーで、つい最近(2020年8月5日)、ユーズで史上2本目となる世界最難9c/5.15dを初登したとのニュースが流れました。

YouTubeでは、アレックス・メゴスのライン・Perfecto Mundo(5.15c) を初登するまでの映像作品ROTPUNKT(ロットプンクト)が観れます(日本語訳付き)。こちらも必見です。

ROTPUNKT

日本にも中嶋 徹というプロのフリーソロクライマーがいます。
彼が北アルプスの名瀑で、落差日本一を誇る称名滝(4段、350m)をフリーソロした映像作品ACT on REASONがYoutibeで観れます。

ACT on REASON

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