ロシアW杯でのサッカーのデータ分析

W杯が始まりました。日本チームは直前での監督解任などもあり盛り上がりに欠けていますが、世界のトッププレーヤーが4年に一度集まる世界最大のスポーツイベントなので、話題には事欠きません。

そんななか、NHKがサービス展開しているスマートフォンアプリ「NHK 2018 FIFA ワールドカップ」が、神アプリと巷で絶賛されています。



こちらこちらのサイトでも大絶賛。こちらのサイトの説明を以下にそのまま引用。

”同アプリでは、NHKが地上波で生中継する32試合がライブ配信され、全64試合の見逃し視聴も可能だ。また、試合に紐づけて、全選手のプロフィール、対戦チームの記者会見など関連ニュース、開催都市やスタジアムの情報、対戦国のプロフィールなどがまとめられ、その日のベストゴール集やハイライト映像が、いつでもどこでも観られる……というだけでも十分有用。しかし、機能はそれだけではない。”

”選手データにおいては、ゴールやアシストの数だけでなく、枠内シュートやファウルの数、パス成功率、走行距離などをランキングつきで細かく確認することが可能。またチームデータとして、これまで行われた試合から、ゴール数、ボール支配率、シュート成功率、クリアやファウルの数、パス成功率、走行距離などがまとめられ、任意の2チームを比較して表示することもできる。”

何やら凄そうである。実際にアプリをインストールして使ってみたところ。。。こここれはスゴイ!!!

本当に神アプリで驚きました!!

以下は大会2日目(16日)に行われた注目の一戦、スペイン対ポルトガルを選択した画面です。各試合には、「実況」「メンバー」「チームデータ」「ランキング」の4つのタブが選択できるようになっています。

チームデータ

 「チームデータ」には、「ボール支配率」「シュート数」「枠内シュート数」「決定機」「コーナーキック」「オフサイド」「セーブ」「ファウル」「イエローカード」「レッドカード」と実に詳細なデータ比較ができるようになっています。

ランキング

「ランキング」 には、「パス数/精度」「距離」「トップスピード」がチーム全体平均と、チーム内トップ5名のデータが出てきます。

トップスピード

ちなみに特定の選手のデータだけをチェックすることももちろん可能です。以下はロナウド選手の対ポルトガル戦のデータです。

ロナウド選手の対ポルトガル戦のデータ

この日いきなりハットトリックを達成したロナウド選手は、シュート4本でゴール3本、パス成功数34/34でパス成功率100%、トップスピードは21.13km/hとどれも桁外れ(というか信じ難い)結果でした。

次にアプリのマルチアングルの機能。このアプリは全試合をライブ放送と見逃し録画のどちらもノーカットで見ることができます(ライブ放送の実況中継は英語)。

決定的なシュートシーンやゴールシーン、イエローカードや選手交代といったポイントも簡単に検索することができ、そのシーンにジャンプして視聴が可能です。

注目シーンにジャンプできます

マルチアングルメニューを出すと、「戦術カメラ」「ワイヤーカメラ」「4分割A」「4分割B」をそれぞれ選択することができます。

通常画面

戦術カメラ

「戦術カメラ」モードでは、フィールド全体を常に俯瞰することができるので、ボール周辺だけでなく、すべての選手がどのように配置されているか、どにょうにボールに対して動いているかという戦術がはっきりと把握することができます。

ワイヤーカメラ

「ワイヤーカメラ」モードでは、上空からボールを追いかける映像となるため、「監視カメラ」モードよりも遥かに詳細なボール周辺の選手の動きを見ることができます。

4分割モード

「4分割A」「4分割B」モードは「通常ビュー」と「戦術カメラ」ビューに加えてそれぞれのチームの監督と注目選手(ポルトガルならロナウド)をカメラがずっと追いかけているモードです。もちろん時間は同期しているので、決定的なゴールシーンなどを多眼的に楽しむことができます。

サッカーは他のスポーツと比較して、あまりデータを活用することがないと思っていただけに、このアプリを使ってみてその常識を覆されてしまいました。

そこで、サッカーのデータ分析について少し調べてみました。

こちらのサイトの記事「ロシアW杯はリアルタイム情報戦 試合中に分析采配 」には、

「サッカーW杯でデータを本格的に使い始めたのは2014年ブラジル大会のドイツチームだという。」

実は世界的にみて、サッカーのデータ活用はアメリカンフットボールやバレーボールに比べて遅れているという。「プレーが途切れないし、得点もほとんど入らないので、集計や評価がしにくい

とあります。また、

「アメリカンフットボールでは(司令塔の)クオーターバックに無線で指示を直接伝えられますが、サッカーはそうはいきません。選手交代のタイミングで伝えられる情報は限られますし、ハーフタイムの時間も決まっています。以前より情報の精度は上がるので、見当違いな指示をしなくなったり、もっと重要なことを伝えられたりはするでしょうが、情報の量そのものが増えるとは思えません」

とも書かれています。

NFLのような米国のスポーツでは、試合中継でも膨大なデータがリアルタイムで画面表示され、チームや選手の過去のすべてのデータと比較したパフォーマンスが瞬時で分析されるような仕組みになっています。

以下はNFLの試合でリアルタイムで分析データのキャプションが入った例です。

1993年以来、35点差以上をつけられた初の試合

ペイトリオッツは第4クオーターで21点差をひっくり返した試合は過去ゼロ

NFLを観ている人はわかると思いますが、試合中に選手やチームのスタッツがこれでもかというほど画面に出てきます。

対して、サッカーは試合を通して漫然と優性とか押され気味とか解説者がコメントしているに過ぎないので、過去のデータ比較もなければ、現在どの選手がどれだけボールをパスしたかとか、ミスは何回あったかとか、全くわかりません。

データ分析の流れはサッカー界にも確実に押し寄せてきているようで、こちらの記事によると、前回2014年で優勝したドイツチームは徹底したデータ分析を行っていたとのことです。


前回W杯ドイツの優勝はデータ分析の成果?

なかには、こちらの記事のように、「そもそもサッカーは、データ分析に向くスポーツか」と問題提起しているケースも日本ではよく聞きます。

これは本当でしょうか?

「サッカーはデータ分析に向かない」と主張している意見の多くが、点が入りにくいとか、流動性が高くプレーが途切れないというサッカーの特殊性を指摘していますが、私はこれは間違っていると思います。

なぜならば、上記で紹介したスマートフォンアプリ「NHK 2018 FIFA ワールドカップ」は、得点の有無に関わらず膨大なデータを提供してくれているからです。仮に0-0の引き分けに終わったとしても、得られるデータは常に一定量です。

さらに、「流動性が高くプレーが途切れない」というのは、サッカーに限らず、アメフトであっても他の球技スポーツでは共通の特徴だからです。NFLの場合は、リアルタイム実況中に、過去何十年の膨大なアーカイブから、類似のプレーを瞬時に引き出してきて再生したり、特定の選手の統計については常にリアルタイムで情報を更新しているからです。

私はむしろ、サッカーのデータ分析が進んでいない理由は、

・従来の監督とコーチの主観的判断で試合の流れを判断することが慣行として染み渡ってしまっていること
・サッカーのデータ分析に投資しても、投資費用に見合うだけの効果(クラブチームの収益が上がる、視聴率が上がる)が見込めないこと

の2点ではないかと思います。

サッカーのファンは、試合を観る目的が、スーパープレーに興奮し、点差の少ないなかで最後まで目が離せない展開を楽しんでいるのであって、NFLや他のデータ分析のスポーツとは楽しみ方が違うのだと思います。

ここでアメフト最高峰のNFLのデータ分析の例を出して比較してみます。以下は今年の2月に行われた第52回NFLスーパーボウルの試合結果とデータです(こちらのサイトより)。



第52回NFLスーパーボウル

この試合は、歴史あるスーパーボウルの名勝負のうちでもナンバーワンに挙げられる史上最高の試合でした。スーパーボウル記録だけでも、

・両チーム合計獲得ヤード1,151はレギュラーシーズン含めて過去の全ての試合の新記録
・ブレイディ 3TD 0INT 505yds QB rating 115.4 で負けた
・両チーム合計パント数 1
・両チーム合計 サック数 1
・史上初 QBがタッチダウンレシーブ
・両チーム合計 PAT 失敗4回
・QBがそれぞれ年間MVPとSB MVPを受賞
・EaglesのRB ブロウントは去年はPatriotsで2年連続でSBリング獲得
・フォールズのQB rating 106.1、しかし彼のレギュラーシーズン最終戦はなんと9.3
・パスインターフェアの反則がゼロ

とまさに記録づくしの試合でした。

アメフトはデータ分析が当たり前のスポーツであって、データが勝敗のすべてを語っているわけではありませんが、上記以外にも膨大な個人データやフォーメーション、戦術や過去のデータなどがフル活用されています。

アメフトはサッカーとはまるで文化の違うスポーツです。

しかし、だからといってサッカーのデータ分析をしないで済むというわけではなく、前述のとおり世界のクラブチームやナショナルチームのトレンドとしてデータ分析を採り入れた先進的な強化策が推進されているのであれば、日本チームにとってもデータ分析を積極的に取り入れなければ、いよいよ世界との格差が拡がってしまうことになりかねません。

試しに「NHK 2018 FIFA ワールドカップ」で提供されるデータをアメフト(NFL)のスタッツ(統計)と比較してみようと思います。

NFLのデータ分析はチームスタッツと個人スタッツに大きく分かれます。以下ではペイトリオッツ対スティーラーズの試合を例に挙げます。

チームスタッツの例

チームスタッツは、1stダウン獲得数、ランヤード、パスヤード、トータルヤード、ターンオーバー数、3rdダウン成功率、反則回数、そして攻撃時間から構成されます。

このなかで特に重要なのが、トータルヤードとターンオーバー、そして攻撃時間の3つです。この3つのデータだけ知れば試合の得点結果を知らなくても勝敗がわかってしまうほどです。

トータルヤードはランとパスの攻撃で稼いだヤード数の合計ですから、攻撃型のチームであれば当然多くなります。一方、守備型のチームの場合は、自分のチームのトータルヤードが少なくても相手チームのトータルヤードがもっと少なければ勝つチャンスが増えることになります。

ターンオーバーというのは攻守が致命的ミスにより交代してしまうという決定的な指標なので、ターンオーバー数の差で4以上の場合(つまり味方の致命的ミスが相手の致命的ミスより4つ多い場合)は80%の確率で敗戦するという統計がある通り、試合を決定づける要素となります。

攻撃時間は、60分の試合のなかでどれだけ味方チームがボールコントロールできていたかという指標で、攻撃時間が長いということは、相手チームは守備の時間が長く選手は疲弊するので、大きな要素となります。

個人スタッツの例

次に個人スタッツですが、アメフトの試合は、攻撃の司令塔であるクオーターバックの出来不出来が試合結果に大きく影響します。野球のピッチャーと似たところがあります。

クオーターバックの出来がどの程度だったかは、(上のキャプチャには出ていませんが)クオーターバックレーティング(通称QBレーティング)という指標があります。

QBレーティングは、パス試投回数と成功回数、パス獲得ヤード数とタッチダウンパス数(TD)、そしてインターセプト数(INT)から自動的に計算されます(計算式はこちらを参照)。QBレーティングの最低は0.0、最高が158.3となります。

目安としてQBレーティングが80を超えれば及第点、100を超えればQBとしては超一流ですが、先ほどのスーパーボウルの結果のように、QBレーティング115.4でも負けてしまう場合もあります。

QBのほかには、エースのワイドレシーバー(WR)の数字(パス獲得回数と獲得ヤード)、エースのランニングバック(RB)の数字(ボールキャリー回数と獲得ヤード)も重要なスタッツです。

以上のアメフトのスタッツでサッカーのデータに相当するものは

パスヤード、ランヤード、トータルヤード → 距離
ターンオーバー → 相当なし
ポゼッション(保有時間)→ ボール支配率 
ペナルティ(回数と喪失ヤード)→ イエローカード/レッドカード数

という関係でしょうか。

ただし、サッカーの「距離」は、全選手の走行距離の合計値なので、NFLのトータルヤードが意味する「攻撃中のボールの前進距離の合計値」とは異なります。

つまりサッカーの「距離」は、チームの選手がどれだけ「走った」かというデータであって、チームのスタミナや攻撃スタイルに大きく依存するということです。

これがもし、攻めのときのパスの総距離と、ドリブルの総距離がそれぞれデータで計測できれば、NFLのパスヤードとランヤードの関係に極めて近いものになると思います。

サッカーにNFLのターンオーバーに相当するものがないのは当然ですが、サッカーの場合はどうでしょうか。致命的なミスというのは、PKくらいですが、それ以外には、コーナーキック、直接フリーキックの数というのは試合を決定づける要素と言えると思います(確かコーナーキックはゴールに繋がる確率が5-9%程度らしい(こちらのサイトによる)。

過去の統計から直接フリーキックがゴールに繋がる確率もわかると思うので、是非ともサッカーのデータ分析には、コーナーキックだけでなく直接フリーキックの数も含めたら良いのではと思います。

今回のアプリが画期的なのは、上記のデータに加えて「枠内シュート数」「決定機」が加わったことです。

当たり前のことですが、シュートをいくら打っても枠内に入っていなければ何の意味もありません。また、決定機が何度あったかは、決定機を作る機会を生み出す力と同時に、ゴール数と比較してそれが多いのであれば、致命的なミスを重ねているという分析に繋がります。

サッカーの個人スタッツについては、前述のロナウド選手のデータの通り、シュート数とゴール数、パス成功数とパス成功率、そしてトップスピードが記録されています。アメフトのQBレーティングに似た、ストライカーレーティングのようなものが決まると相対比較ができて面白いのではないかと思います。

しかしロナウドのトップスピードが21.13km/hだったというような個人スタッツは、何の意味があるのか疑問です。スピードが速いというのは単に個人の能力の一部であって、試合の流れにはあまり関係ないからです。スピードだけで言ったらNFLのWRには元オリンピックの短距離メダル選手がゴロゴロいるのが現実です。アメフトではWRのトップスピードがデータ化されることはなく、キャッチ数やQBのパスターゲットになった回数、簡単なパスのキャッチを失敗した数、パスドロップ回数や確率といったものがデータ化されています。サッカーでも(トップスピードではなく)選手のパスミスやトラップミスなども数値化されると精度の高いデータ分析に繋がるのではないでしょうか。

今でこそこれほどまでにデータ分析が進化しているアメフトですが、20年前くらいまではデータは少なくとも視聴者には開放されていませんでした。サッカーも今後の進展がどうなるのか気になるところです。

以上、個人的にはサッカーはほとんど観ない一方、NFLの試合は毎年100試合以上観ている身としては、アメフトからの上から目線でサッカーのデータ分析についてコメントしてしまいましたが、何らかの参考になるのであれば幸いです。

今回のNHKのスマートフォンアプリ「NHK 2018 FIFA ワールドカップ」は、実験的なもので、W杯開催中だけのサービスということですが、このアプリが日本サッカーのデータ分析のパンドラの箱を開いてしまうことになるのでしょうか。

(2018/06/30 追記)

FIFAのサッカー国別ランキングがあまり当てにならないという話は良く聞くのですが、その代わりにイロ・レーティングというものがあることを知りました。ワールドカップの試合結果もリアルタイムで反映されているようです。

ワールドカップ開催直前のFIFAランキングでは8位だったポーランドは、イロ・レーティングでは15位でした(日本はFIFAランキング61位、イロ・レーティングは25位)。ちなみにポーランドは1次リーグ敗退となりました。


(おわり)

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コメント

  1. すいません、上記NHKワールドカップアプリの解説で
    "ちなみに特定の選手のデータだけをチェックすることももちろん可能です。以下はロナウド選手の対ポルトガル戦のデータです。"とありますが
    特定の選手のスタッツを表示させるにはどのようにするのか教えていただけないでしょうか。メンバータブやランキングタブの個人名は反応がありません。

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