[グレート・リセット] クルマや持ち家はもはや不要?アフターコロナに着実に進行する経済と社会の大変革とは

 

最近2冊の本を読みました。どちらも同じ「グレート・リセット」という題名です。


2冊のグレート・リセット

左側の黄色い本は、コロナ禍以前の2011年に出版され、右側の白い本は、コロナ禍真っ只中の2020年に出版されました。


「グレート・リセット」とは、大不況のあとにやってくる経済社会秩序の幅広い根本的な変革を指します。


世界経済フォーラム(WEF)が開催するダボス会議の2021年のテーマが「グレート・リセット」でした(本会議は2021年8月に予定)。


グレート・リセットという言葉が初めて登場したのは、2008年リーマンショック後の不況時に、米国の社会学者であるリチャード・フロリダ氏が出版した著書(黄色い本)でした。


リチャード・フロリダ氏の「グレート・リセット」は、現在のコロナ禍での大不況とそれに伴う経済や社会の大変革を、いち早く予見していたのではと思えるほど、洞察に富む、読み応えのある名著です。


コロナがもたらす新たな経済と社会は果たしてバラ色の未来なのか、それとも暗黒の時代の到来なのか?


グレート・リセットによって、自分を取り巻く環境やライフスタイルがコロナ後にどう変革するのか、以下に所感をまとめてみました。

1. グレート・リセット(リチャード・フロリダ著)

『グレート・リセット』(2011年)は、「クリエイティブ都市論」で知られる米国の都市経済学者のリチャード・フロリダによる社会経済再生論です。




『グレート・リセット』の「訳者あとがき」から以下引用します。


大不況の後にはつねに社会・経済的なリセットが起こり、それによって新たな社会・経済構造のもとで繁栄がもたらされるという。


過去二回、それが繰り返された。


金融危機を引き金にした今回の不況からも、すでに立ち直る動きが始まっている。それが、第三次の「偉大なるリセット」だ。


(引用おわり)


一回目のリセットが1870年代の「大不況(Great Depression)」で、二回目のリセットが1930年代からの「大恐慌(The Great Depression)」です。


そして三回目のリセットが、2008年のリーマンショック後から現在のコロナ禍で現在進行形の「グレート・リセット(The Great Reset)」ということになります。


出典:clublaura.com


このリセットは、1世代(約30年)ほどの期間を経ての変化なので、三回目のリセット「グレート・リセット」が完結するのは、今から約20年後の2040年ごろとなります。


過去ニ度のリセットは、米国の主要都市の変遷を中心に論説されているので、日本に同じような議論が当てはまるかどうかは微妙です。


しかし、工業の興隆とともに郊外移転が進んだ点など共通点も多く、日本の将来を予測するには大いに参考になります。


『グレート・リセット』の書評については、こちらのサイトが詳しく解説されています。


以下は第3章の「新たなライフスタイル」を中心に私見をまとめました太字は本文からの引用)。

2. リセット経済

2009年の金融危機で、オバマ元大統領は

数学に秀でた大卒がすべて金融機関のトレーダーになることは望ましい状態ではなく、エンジニアやコンピューター・デザイナーにもなってほしい

とニューヨーク・タイムズ誌に書いています。

「グレート・リセット」で一貫して主張されているのは、現在の金融機関への批判です。

人々は、やたらに消費したがる風潮から脱却して「新節約主義」に移りつつあり、手に入れる品物は質素で基本的なモノだけに限定しようとしている

物質至上主義からの脱却も、「グレート・リセット」で語られる大きなテーマです。


しかし、単なる「新節約主義」だけでは、消費が減退して需要が減るだけで、経済を復活させることはできません。

価値観が大きく変わるだけではなく、新しいライフスタイルと、新しい経済システムが生まれて、従来とは違う新しい形の消費を促進するべきと著者は説きます。

次に起こるべく第三次のグレートリセットや新しいライフスタイルは、国家の政策や計画として上から与えられるものではなく、経済面で有機的に盛り上がってくるものだ

この視点は、コロナ禍で出版されたもう一冊の「グレート・リセット」(2020年)で展開される政府主導型のアプローチとは立ち位置が異なります。

この点は後ほど改めて触れます。

これまでの30年間、私たちの経済はブルーカラーに支えられた製造業から、専門職や技術職、クリエイティブな仕事へと中心が移ってきた。知識中心の仕事に支払われる給与の総額は、二兆ドルにも迫る勢いで、アメリカにおける給与総額の半分にも達する

このような傾向は、日本を含めた先進諸国に共通した現象ということで、労働力の三割から四割がクリエイティブな仕事に従事しているとのことです。

では産業の金融部門がGDPに占める比率はどうでしょうか?

1980年にかけては2%~4%で推移していたが、それ以降に急速に比率が上がり、2006年にはGDPの8.3%にまで急上昇した

金融の専門家たちへの給与やボーナスは大盤振る舞いされているのです。


コンピュータ・エンジニアより金融エンジニアのほうが多いということになると、優秀な頭脳が周辺部分に過剰に集中しすぎだ。頭のいい連中の一部は、経営にたずさわるとか、もっとクリエイティブな仕事に就くとか、政治家になったほうがいい

ずいぶん昔の話ですが、私が大学を卒業した当時、理工系でありながら金融業界に就職する学生は非常に珍しかったのですが、今ではごく普通の進路のひとつになっているようです。

また、アメリカでは、1990年代に(チャレンジャー号の打ち上げ失敗などで)NASAの予算が大幅に削減されたことや、当時のAI(人工知能)技術が期待されたほど実用化されなかったこともあり、ロケット工学やコンピュータ・ビジョンのエンジニアが、(選択の余地なく)ウォールストリートに大量に転職して金融工学を発達させたという話は良く聞きました。

現在、アメリカの科学者のうち、学士号を持つ者の17%は外国生まれだし、修士号保持者の29%、博士号では38%が外国生まれだ

1990年代にシリコンバレーでビジネスを始めた企業の三分の一から半分が、スタート時点で外国生まれの経営者や研究者を巻き込んでいた

ショッキングな事実です。

というのも、日本からのアメリカ留学生数は、直近30年間で激減しており、代わりに中国やインドなど他のアジア諸国の留学生に取って代わられているからです(詳しくは「ハーバードの外国学生 中国921人、韓国305人、日本は107人」の記事を参照ください)。

背景には、アメリカの大学の学費高騰や、日本国内での研究職キャリアの冷遇などがありますが、世界のテクノロジーの中心地であるアメリカで、日本人の存在感が薄れつつあるのは残念でなりません。

米国コロンビア大学

新しいテクノロジーや産業ではなく、不動産や不安定な金融商品に資金を投じ、有能な人材を動員してしまい、その結果、連鎖的にバブルを発生させ、大混乱を引き起こした

現在の金融業界主導の経済の仕組みに対する批判は止まりません。

これは社会人になって世の中に出てみると痛感するのですが、経済成長至上主義の世界では、資産や資本の流れの上流の業種ほど平均収入は上がります。

具体的には、投資ファンド、銀行、証券、保険といった最上流から、商社、製造、流通、サービスといった、金融の流れで下流に行けば行くほど富の分配(平均年収)が低くなります。

世の中はつくづく不平等にできていますね。。。


金融部門の役目は、仲介者だ。したがって、小さい存在で、本来の任務を果たせれば十分だ

経済の一部として真の富を作り出すのを助けるべきだったのが、それが経済に寄生する形になってしまった。金融が目標そのものになり、資本を増やすことに狂奔した

まさにその通りだと思います。

ここ何十年か、数学・科学・技術系の優秀な学生たちは、きわめて高額の給与に惹かれてウォールストリートに就職してしまう


最近はこのような流れにも是正の兆しが見えてきて、その状況は変わりつつあるようです(少なくとも執筆時点では)。

ハーヴァード大学の学内誌「ハーヴァード・クリムゾン」によると、卒業を控えた4年生の動向調査で、金融業界を敬遠する方向性が見られ、2008年の23%から2009年には11.5%に半減している。コンサルティング業界も人気が落ちて、16%から8.5%に下がった

とのことです。

では、ハーヴァードの卒業生たちはどのような職種に惹かれているのでしょうか?

教育分野志望は10%から15%に増え、ヘルスケアは6%から12%へ倍増した。一方、政府役人の仕事は、安定しているという従来通りの見方はあるものの、具体的な就職先としては4.5%から3%へとやや減っている

金融機関が社会にとって不要ということではもちろんなく、金融の役割は経済を健全に回すために必要不可欠なのは今後も変わりません。

しかし、金融業が、株式相場を操作したり他人のカネを借りて株を売買して(自分たちだけの)材をなすといった風潮は是正され、(生産に従事しない)介在者という従来の役割に徹するように変わる必要があります。

そうなると当然、金融の専門家たちへの給与やボーナスは減少することは避けられないでしょう。

このことは(日本よりもむしろアメリカで深刻な)格差社会の是正にもつながるのではないでしょうか。

3. よりよい働き口

繰り返しになりますが、この書籍が出版されたのは2011年、コロナ禍が発生する以前です。

成長している職種には二つのジャンルがある。一つは、知識をベースにした専門的でクリエイティブな仕事で、高い報酬が得られる。たとえば、ハイテク関連のエンジニア、ソフトウェア開発者、管理職、医師、グラフィック・デザイナーなど


もう一つは、高い給与は期待できないが、日常的なサービス経済関連の仕事。たとえば、飲食店、看護補助、清掃、在宅介護などだ

出典:起業家.com

この30年ほどのうちに、アメリカではこのような日常サービスの仕事が、2800万件も増えた。一方の知識職、専門職、クリエイティブ分野は2300万件ほど増えた。それに対して、製造業のほうは、わずか100万件が増えただけ

サービス業もクリエイティブな仕事も、不況には強い

日常的なサービスの仕事は、今で言うところのエッセンシャル・ワーカーと見事に一致しています。

サービス業がパンデミックのようなコロナ不況の下では壊滅的な打撃を受けるとは、執筆時点では想定外だったと思います。

製造業の仕事が過去30年間でわずか100万件しか増えなかったというのは、製造業から事実上撤退したアメリカの事情であって、日本は遥かにマシだったと思いますが、それでも、中国への製造業移転というグローバルなトレンドから見ると、いずれは日本もアメリカと同じような状況になるのではないでしょうか。

サービス業は経済のはかで最低の仕事だ、という人も多い。平均すると収入はきわめて低いし、安定性にも欠ける。移民などで教育の機会がまだ与えられない者が、もっと適切な仕事に就けるまでの過渡期的な職業としてはいいかもしれない

さすが移民大国であるアメリカでは、サービス業の現状についてこのようにバッサリと斬り捨てています。

コロナ禍で苦労しておられるエッセンシャル・ワーカーや、飲食業界に携わっている方々を思うと、心情的に反発したくなりますね。


しかし、著者は以下のように指摘しています。

だが製造業やハイテクの業種だけがイノベーションと成長に寄与するというのは、旧来の概念に捉われすぎた考え方だ

サービス産業にもイノベーション、起業、よりよい雇用機会などの可能性は秘めていると思える

サービス業界はまだスタート地点に着いたばかりで、ここからさらにイノベーションを積み重ね、生産性を向上させ、高い給与を目指していかねばならない

具体例として著者は以下のように書いています。

床掃除や窓拭きをするスタッフに、もっとビルのエネルギー効率やコスト効率を上げる仕事をさせてはどうだろう。ビルの暖房やエアコンを管理する部署がグループで分析すれば、システムを改善できるかもしれない

コロナ禍によって、グレートリセットが加速するとすれば、まさにこの通り、サービス業でのイノベーションが、会社や従業員の存続を賭けて進んでゆくということです。

このような視点から、飲食、観光、看護、介護などの業界の将来を考えると、単なるコロナ禍を乗り越えて元の生活や社会に戻るための援助というだけでなく、パンデミック時代にも通用する不可逆的なイノベーションを引き起こすことが大切ではないかと思います。

コロナによって様変わりしてしまった人々のライフスタイルは、たとえ今後ワクチン接種が進んでパンデミックが収束したとしても、再び以前の状態に戻ることはないでしょう。

そういう意味では、世間で良く耳にする「コロナに打ち勝つ」「以前のライフスタイルを取り戻す」という姿勢ではなく、「コロナと共生する」「新しいライフスタイルを確立する」と捉えるべきではと思います。

4. ニュー・ノーマル

これまでの時代は、物質的な豊かさが人生の最優先事項として追求されてきました。

大恐慌とそれに続く第二次リセットの間に、各家庭の家計に占める食費の割合は大幅に減った。20世紀の初頭には食費の比率が五割ほどもあったが、1950年代になると三分の一以下に減少した

それだけ使えるカネが増え、クルマや郊外住宅が購入できるようになり、家財道具も大幅に増えた。経済の根底構造が変化し、大宣伝による消費ブームが戦後の繁栄をもたらした


しかし、このような消費/浪費社会は、第三次のグレートリセットで地殻大変動を起こすだろうと筆者は予言しています。

単に豪華な住宅を手に入れるだけでは、満足できなくなった。

サブゼロ/ウォルフのしゃれたワイン冷蔵庫、床暖房つきのバスルーム、巨大なウォークイン・クローゼット、ステレオが天井に埋め込まれたホーム・シアター。。。

「どこに住んでいるか、どのようなクルマに乗っているかでステータスが決まる」

この考えは日本にも根強く残っており、中国では進んでいる狂乱状況ですね。


消費者の好みが変わる程度の変化ではなく、これまでの住宅・自動車願望の呪縛から離脱する方向に向かっていく

筆者は都市経済学者の観点から、自動車での移動から、高速鉄道のような大量交通移動手段に変わってゆくと予測しています。

この点も事情はれもアメリカと日本では異なりますが、国民の自動車離れというのは共通したテーマであることを考えると、現在急速に進んでいる自動運転のテクノロジーというのは、果たしてどれほどの需要喚起につながるのか、懐疑的になる必要があるかもしれません。

AP通信の最近の記事によると、日本では「ステータス・シンボルとしてのクルマは、すでにドブに捨てられてしまった」

都内の高級住宅街では、ベンツやBMW、ポルシェといった高級外車が当たり前のように走っており、未だにステータス・シンボルとして存在感を示しているようにも見えます。

実は私も数年前までは外車に乗っていたのですが、クルマを単なる移動手段としか見なしていないこともあり、燃費効率の良い国産のハイブリッド・カーに買い替えてしまいました。

通勤としてのマイカー需要が減少し、一方、近場での移動には自転車のような利便性が高くかつ健康志向の方法が浸透すると、自動運転機能付きのマイカーは、本当に売れるのでしょうか??

私たちが商品を購入するときに、その品物自体がぜひとも欲しいというよりも、私たちがそれに付随したステータスを買っていることが多い

ハイブリッド・カーを購入した人は、それによってどれだけ燃費を節約できたか、エネルギー効率がどれほど改善されたかというより、ステータスが上がったことで評価される

トヨタ・プリウスを持っていれば、従来の燃料効率のいいクルマのオーナーになるよりも尊敬のまなざしで見られる

トヨタのハイブリッド・カー「プリウス」

「人々がステータスを上げようと思えば、エコな製品を買うほうが、豪華でエコでないより効果的だ」

これはまさに私自身の(ブランドよりエコを重視するという)アイデンティティの主張のことかもしれません。

「ニュー・ノーマル族」にとっては、人生で成功した裕福な人は、有名ブランドを着てロゴを見せびらかすのではなく、消費しないこと、あるいは賢い消費をする能力を誇示する

これは私には耳が痛い指摘です(笑)

「人生で成功した裕福な人」かどうかは別として、私は、消費しないこと、あるいは賢い消費をする能力を誇示する傾向があるのは間違いありません。

実際、このブログにも、「お金の節約術」というカテゴリーで多くの記事を投稿しています。

特に、クレジットカード(累計で300枚以上発行)やキャッシュレス決済を駆使した節約術には(自分で言うのも何ですが)偏執的なこだわりを持っています。

消費を加速させるクレジットカードが、節約に結び付くというのも皮肉ですが。。。

音楽を聴いたり映画を観るのも趣味ですが、棚を埋め尽くすようなCDやブルーレイディスクのコレクションは所有しておらず、ほとんどはレンタルかサブスク、もしくはWOWOW(セルフバックで無料加入)の録画です。

自宅には本棚がなく、読んでいる99%の書籍は近所の図書館で無料で借りたものです(このグレートリセットも図書館からの貸出本です)。

ファッションにも無頓着で、ほぼすべての服がユニクロ/GUやシマムラのセール品です(ブランド品は仕事用に最低限持っているだけ)。

コロナ禍となった現在、物質的豊かさからの脱却は、クルマと持ち家だけに留まらず、外食産業や旅行業界の在り方も激変させるかもしれません。

飽食時代の豪華な外食や、海外の高級リゾートでの休暇といった、ステータスを伴う経済活動は縮小し、健康志向でかつコストのかからない(家庭内での)食生活や、比較的近郊の地域に限られた旅行や自然ツアーといった嗜好に代わる可能性が高いと思います。

グレートリセットによって、外食産業や観光業が果たしてどのようなイノベーションを実現するのかは予測が難しいですが、従来型のサービス業が経済的に成立しなくなるのは時間の問題でしょう。

5. 大いなる再定着

筆者はグーグルのマンハッタン・オフィスやシリコンバレー本社に勤務する社員の通勤状況について考察しています。

多くのアナリストが、都市(およびその位置)の重要性はグローバル化が進むにつれて薄れてくるのではないか、と予言してきた。だが実際には、都市やメガ地域の経済面における重要性はますます増大している

利便性の高い都心に住むか、快適な郊外に住むのか、どちらが良いかは一概に言えませんが、旧来の郊外をもっと人口密度の高い、多目的コミュニティに仕立て直すべきと訴えます。

規模の大きい都市は、多様性があり、人ととの出会いも豊富で、経済に浮き沈みがあっても強い生命力を持っている

大学新卒の200万人を最も多く引き付けた場所は、どこだったかわかるだろうか。それはニューヨークだ


なるほど、ニューヨークのような大都市が若い世代に人気なのは、今も昔も変わっていないようですね。

6. 大きく、素早く、グリーンに

引き続きニューヨークの話です。

成功している都市の代謝スピードは、(動物のサイズと新陳代謝のスピードとは異なって)サイズが大きくなるほど早くなるという

巨大で混雑している大都会は、エコロジーの面では最悪だと思う人が大部分だろうと思われる。ところが、環境優等生のモデルとして上げられるのは、実は大都市だ

アメリカで最もグリーンな場所はほかならぬニューヨークで、「世界で定められた環境基準に最も近づいている」のは、アメリカでは唯一ニューヨークだけだそうだ

ニューヨークの住民が平均して年間に放出する温室効果ガスの量や、ゴミの量、燃料の消費量、水の使用量、電気の消費量などは、最も少ないそうです。

私たちが始めるべきことは、都心のスペースと周辺の郊外の同心円地帯の両方をもっとうまく活用する方法の開発だ

と筆者は主張します。

東京では、コロナ禍で在宅やテレワークの機会が増えて、都心のオフィスビルの入居率が下がり、通勤の頻度が減ったことで都心から郊外へ出てゆく人が増えています。

これは果たしてグレートリセット的には正しい流れなのでしょうか?

もちろん、年代や世代によって異なりますが、若者(もしくは子供が同居している親の世帯)にとっては、郊外への転居は、経済的にも人的にも大きな機会を損失する可能性が高くなるのではないでしょうか。

アメリカの場合は、大都市ニューヨークといっても、セントラルパークや、近隣には自然が豊かなエリアが豊富で、どこまで行っても住宅街が果てしなく広がっている東京とは比較できません。

しかし、日本は、東京や横浜、千葉まで含めたメガ地域がすでに確立されているメリットがあるので、人口の一極集中に伴う問題(通勤地獄や社会サービスの混雑、限られた公共スペースなど)さえクリアできれば、多くの人々がメガ地域に集まるのはグレートリセット的にはメリットがあります。

エコを理由に、都心から軽井沢などの郊外に引っ越すというのは、実はエコになっていない可能性が高いのです。

7. あなたのスピード

資本主義の歴史、および過去2回のリセットの経過を見ると、新しい交通インフラが核になって変動が起きていることがわかる

それによって土地の利用が効率的に進み、人々が住む場所、働く場所の境界線が広がった

これは、ヒトやモノ、知識の動くスピードが飛躍的に速くなったおかげですね。

クルマに依存する交通システムは、大都市やメガ地域ではもはや限界に達している

再びクルマに対する批判ですが、これは排気ガスの温室効果ガス問題や、ガソリンへの依存度というクルマの脱ガソリン論とは別次元で、交通渋滞によって消失する勤務時間や経済的損失があまりにも莫大だからです。

これは、高速道路などのインフラをさらに整備すると、逆に渋滞を増やしてしまうというジレンマがあります。


勤務場所が近ければ、歩くか自転車で行くのが最も効率的だ。全国的に見れば、自転車通勤は0.5%しかない。だが、オレゴン州ポートランドでは6%ある。サンフランシスコとシアトルでは3%だ

日本の国税調査では、全国で通勤/通学に自転車(だけ)を利用している人は、12.1%とアメリカと比較すると格段に多く、東京だけに限定すると、16.5%にも上ります。


自転車通勤者だけのデータが見つかりませんでしたが、おそらく上記の数字の大部分は通勤ではなく通学だと思われます。

こちらの記事によると、コロナをきっかけに自転車通勤を始めた人も増えているようです。

(2021/04/28 追記)
WBSのニュースで、東京都の転入超過数の推移について話題に出ていました。


コロナで在宅が増えた影響で、東京から神奈川や埼玉、千葉へ転入する人が増えているようです。


8. レンタル・ドリーム

アメリカの豊かさの象徴は、郊外に一戸建てを持ち、芝生が敷き詰められた広い庭と、1台か2台のクルマが車寄せの近くに駐車してあるような光景ですね。

しかし、近年は、このようなアメリカンドリームにも陰りが見えてきました。

驚くべきではないのかもしれないが、持ち家族は、借家族よりも多くのストレスを抱えている


2009年の時点で、45歳から54歳の30%、55歳から64歳までの18%が、ローン返済額超過に陥ったという

世間の常識によると、住居費は世帯収入の25%から30%が妥当なところだった。だがその後、給与の上昇率より住宅価格の高騰ペースが上回るようになり、住居費の比率はグンと上がり、今や収入の50%を上回るほどだ

ここまでは想定内の内容ですが、以下に驚くべき事実が明かされます。

経済学者のアンドルー・オズワルドの研究は示唆に富んでいて、持ち家の比率が高い都市では失業率も高いという

持ち家は、可動性や柔軟性が欠けるため、経済状況が思わしくなくなっても引っ越しにくいのが実情です。

2008年のサブプライムローンに端を発する金融危機は、まさにこの持ち家に対する過剰なこだわりでした。

持ち家比率は、この20年間で最大の落ち込みを見せ、2004年の69.2%から2009年には67.6%に減った

誰もが郊外の持ち家という強迫観念に駆られ、それを大いに助長したのが住宅ローンで、それが今日の金融危機につながった。

コロナ禍でも、在宅勤務への対応に(部屋が増やせない)持ち家が足かせとなっているケースも散見されます。

可動性や柔軟性に欠け、長期保有で経済的なメリットも少ない持ち家を敢えて苦労して手に入れる理由はなくなってしまいました。

9. リセット・ポイント

最後の章になりました。

グレートリセットについての総まとめになります。

一世代先の経済や社会がどのようになっているのか、だれにも正確には予見できない。一つだけ明白なことは、次のグレートリセットを動かす原動力は政府ではない、ということだ

新しいイノベーションが姿を現し、新たなテクノロジーとインフラが根付き、新しい暮らし方や仕事のあり方のパターンが次第に経済状況を変えていく

政府の中心的な役割は、このようなシフトをなめらかにするための豊かな土壌づくりを手助けすることだ

私たちが生きている現代は、まさにそのようなグレートリセットが起きる真っ只中だということですね。

農業経済から工業経済へ移行したような大変革で、今回は工業経済からアイデアに基づいたクリエイティブな経済に移行する

旧秩序から新秩序への切り替えは、普通は抵抗勢力のため加速することは難しいのですが、今回のコロナ禍で、旧秩序を維持することはできなくなったので、現状維持という選択の余地が失われました。

我々はそのような大変革を加速しなければ生き残れない世界に無理やり放り込まれたのだと思います。

今回、人々を瀬戸際にまで追い込んだ銀行や金融システムに貴重な資本の運用を任せるのではなく、私たちを狂奔させた住宅産業や住宅ローンを力づけるのではなく、経営の舵取りに失敗した旧態依然とした企業を救済するのもなく、アイデアを基盤にした経済への移行を速やかに行えるよう、あらゆる方面で努力すべきなのだ

現在の歪んだ金融システムは明らかに是正されるべきですね。

そして、乱暴な言い方かもしれませんが、コロナ禍で生き残れない企業や業界に、延命措置を施すのではなく、クリエイティブな経済に移行する手助けを行いながら、現在のエッセンシャル・ワーカーやサービス産業で報酬的に報われない社会の仕組みを変えて、金融など一部の産業に偏っている富や人材を公平に再配分することにより、イノベーションを加速させるということです。

そのためには、疲弊した教育システムも変革が必要だし、都市インフラの整備、弱者の救済措置、消費の習慣の改善といったあらゆる努力が必要となります。


以上、『グレート・リセット』の書評でした。

本著「グレート・リセット」は、経済の未来のあるべき姿を予測した経済書として、隠れた名著ではないかと思います。

また、(アメリカとは違い)日本では、果たしてどのようにグレートリセットが進むのか、非常に興味のあるところです。

(2021年4月25日 追記)
2020年に出版されたもう一冊の「グレートリセット」の内容と、世界経済フォーラムのレポートについても書きました。

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