映画『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』:「炎よ、我とともに歩め」ローラ・パーマー殺害の悲劇の映画化

映画『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』は、デヴィッド・リンチ監督の作品です。

「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」

TVドラマ「ツイン・ピークス」の第一話で殺害されるローラ・パーマーの前日談を劇場用映画用に編集したものです。「ツイン・ピークス」が社会現象になるまで大ヒットしたあとに封切られました。


副題の"Fire Walk With Me"(「炎よ、我とともに歩め」)とは、ローラ・パーマー殺害の現場にあった紙切れに書かれていたメッセージですが、悪魔(ボブ)に取り憑かれてしまったローラ・パーマーが親友ドナにこの言葉を叫ぶシーンがあり、この先破滅の運命を突き進んでしまう予兆を表しています。


ボブ

物語は1年前、テレサ・バンクスの死体が発見されたところから始まります。やがてFBIの捜査官のひとりが行方不明に。。。前半はデヴィッド・ボウイがチョイ役で出ていたり、デヴィッド・リンチ自身がFBIエージェント役で出演したりしていて、TVシリーズと同じようなウィットの効いた軽快なテンポで進みます。

中盤のローラがボブ(もしくはボブに取り憑かれた父親)の影に怯えるようになってからは、謎の鼻のとんがった白い仮面を被った少年、繰り返し現れる緑の指輪、そしてブラックロッジ住人、丸太おばさんなど不可解なものが次々と登場してきます。

そしてローラが実の父親に殺害されるクライマックスが訪れると、映画は観ている側も辛いほど救いがたいほど絶望的にエンディングを迎えます。

リンチ監督の作品としては珍しくストーリーは時系列で進むので、内容に付いていくのは難しくありません。TVシリーズを観ていなくても大筋は掴めますが、やはりTVシリーズを観たあとにこの映画を観るのがオススメです。

ローラ・パーマーを演じたシェリル・リーは、表は「学園の女王」で裏の世界では麻薬とセックスに溺れてしまった高校生という役柄を見事に演じ切っています。


ローラ・パーマーを演じたシェリル・リー

この映画のテーマは、「現代のアメリカ社会が抱えている一見平和に見える日常に潜む狂気」であるのは間違いないと思います。映画の冒頭で、クーパー捜査官が「次の被害者は、高校生で、性的に乱れており、麻薬に溺れている」というセリフに、「それじゃアメリカの高校生の半分が対象じゃないか!」と冗談半分に返すシーンがありますが、これは冗談でも何でもなく、現に米国の高校生の半数が卒業までに大麻などの薬物使用を経験しているというデータが2009年の調査で報告されています。また性体験に関しては異論の余地はないです。

日本はどうでしょうか。中高生の薬物乱用の障害経験率は、2007年の調査によると1~2%程度と米国と比較するとまだ低いですが、ここ数年の危険ドラッグに関わる事件や事故の急増を見ると、安心していられない状況です。

それにしてもボブとは一体何者なのでしょうか?映画では「ボブ=ローラの父親」の図式が成り立っていますが、それほど単純ではなさそうです。TVシリーズでもそうでしたが、ローラの父親もボブに乗り移られてしまった犠牲者と見ることもできます。ボブは森のなかにあるブラックロッジから現世にやってきた悪魔という解釈もできます。

ブラックロッジの異次元世界

封切り当初は、熱心な「ツイン・ピークス」ファンからは不評だったようですが、アマゾンのレビューを見る限りは、この映画は驚くほど高く評価されています。私も個人的には良く出来た映画だと思います。

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