『春の祭典』 (ストラヴィンスキー) 名盤聴き比べ!名演奏・優秀録音ベスト10ランキング

『春の祭典』は、ロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーが1913年に作曲したバレエ音楽です。

不協和音の連続、複雑なメロディー、原始的なリズムに満ちた、古典的なクラシック音楽とは異なる音楽ですが、近代音楽の代表作と評される名作です。

『春の祭典』には、優れた録音や演奏も数多く、指揮者やオーケストラの違いを聴き比べるのも面白いです。


以下に、多くのCDから、名演奏と優秀録音の揃ったベスト盤を選出しました。

0. 『春の祭典』について

私が最初にこの曲に出会ったのは、クラシック音楽に興味を持ち始めた高校生時代でした。

最初は生理的に受け付けませんでしたが、何度も聴き込んでいくうちに、スペクタクルな管弦楽の豪華絢爛さと、原始的なリズム感にすっかりハマってしまいました。

以来、これまで数十年に渡って数多くの『春の祭典』を聴き、保有しているレコードやCDの数も徐々に増えてきました。

2013年の『春の祭典』初演100年記念には、2種類のCDボックスが発売されました。

『春の祭典』初演100年記念ボックス(20CD)

『春の祭典』初演100年記念ボックス(10CD)

2つの記念ボックスに収録されている演奏だけでも40種類近く、手持ちのバラ売りCDを含めると50種類以上の『春の祭典』を聴き比べています。

そのなかから、独断と偏見で名演奏と優秀録音の揃ったベスト盤を10枚選びました。

以下、『春の祭典』の主な聴きどころを紹介します(譜面は「MKV永遠の名曲を求めて」より引用)。

第1部「春のきざし」:序章が終わって激しい主題(弦のトゥッティ)が出てくるところ


第1部「春の輪舞」:中盤の盛り上がりでピッコロが高鳴り、弦楽器が一斉に入るところ


第1部「敵の部族の遊戯」:次の「長老の行進」に続く部分、ほとんどの楽器がトゥッティで混入するところ(テノールホルンの鳴りっぷり)


第2部「乙女の神秘的な踊り」~「選ばれし生贄への賛美」:静寂を破るティンパニ11連打からの狂騒のはじまるところ

第2部「生贄の踊り」:トロンボーンのグリッサンドを合図に終幕に向かって乱舞狂乱が始まるところ


以下ベスト10ランキングです。


1位. コリン・デイヴィス指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(1976)
第2. ゲオルグ・ショルティ指揮/シカゴ交響楽団(1974)
第3. クラウディオ・アバド指揮/ロンドン交響楽団(1975)

奇しくも、3枚とも1970年代のものとなりました。

60年代にも名盤は少なくないのですが、やはり『春の祭典』は、ある程度録音が新しくないとですね。

以下が第4位から第10位です。

4. エサ=ペッカ・サロネン指揮/ロスアンジェルス・フィルハーモニック(2006)
5. ロリン・マゼール指揮/クリーヴランド管弦楽団(1980)
6. ズービン・メータ指揮/ロスアンジェルス・フィルハーモニック(1969)
7. パーヴォ・ヤルヴィ指揮/シンシナティ交響楽団(2004)
8. ヴァレリー・ゲルギエフ/マリインスキー劇場管弦楽団(1999)
9. アンタル・ドラティ/デトロイト交響楽団(1981)
10. グスターヴォ・ドゥダメル指揮/ベネズエラ・シモン・ポリバル・ユース(2010)

第4位から第10位は、奇しくも(メータ盤を除いて)80年代~2000年代の新しい録音となりました。

巷では名盤とされているブーレーズの新旧盤、マルケヴィッチの歴史的名盤などは入っていません。。。

80年代のCDメディア登場に伴うデジタル録音技術の進展、そして2000年代に入ってからのSACD/DVDオーディオのディスク革命、その後のハイレゾの登場など、音楽を聴くメディアは常に進化します。

近年の『春の祭典』も、時代を反映して、中南米オケの演奏や、ピリオド演奏の登場など、バリエーション豊かになりましたね。

ちなみに、評論家が選出する音楽之友社発刊の『レコード芸術名曲名盤』の過去のランキングも以下に掲載します。

名曲名盤コレクション2000(1980年発刊)
  1. アバド/ロンドン交響楽団
  2. ショルティ/シカゴ交響楽団
  3. デイヴィス/アムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団

名曲名盤300(1999年発刊)
  1. ブーレーズ/クリーブランド管弦楽団(91年盤)
  2. ブーレーズ/クリーブランド管弦楽団(69年盤)
  3. シャイー/クリーブランド管弦楽団
名曲名盤300(2011年発刊)
  1. ゲルギエフ/マリインスキー劇場楽団
  2. ブーレーズ/クリーブランド管弦楽団(91年盤)
  3. T・トーマス/サンフランシスコ交響楽団
それぞれの時代を反映して興味深いですね。。。

尚、下記のレビューには、【完全版】CDディスコグラフィ_Ver.2.0という情報満載のサイトを参照にしています。

1. デイヴィス指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

独断と偏見で選出した第1位は、デイヴィスの1976年盤です。スコアは1947年版。


このアルバムは私が『春の祭典』を一番初めに聴いたレコード盤でした。

一番最初に聴いた演奏が、その後のレファレンスになってしまうのは良くあることですが、このCDはまさにその典型例です。

第16回(1978年)レコード・アカデミー賞<管弦楽曲部門>受賞の名盤です。

1.1 演奏 ☆☆☆☆☆

超名門アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(現:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)が奏でる音色は、ホール残響音を含めて超一級品ですが、この盤のスゴイところは、やはりコリン・デイヴィスの卓越したスコアの分析力にあると思います。

演奏は、洗練さとパワフルが奇跡的に融合したとでも表現したら良いでしょうか。。。猛烈なエネルギーが秘められた名演であることは間違いないでしょう。

星の数ほどあるハルサイの録音のなかで、この盤ほど聴いていて驚愕するものはありません。

弦楽器は静かで上品に奏でるかと思えば、意表を突いたタイミングで突然狂ったように鳴り響く金管群、大爆音で轟く大太鼓やタムタム。。。いやいやこの盤は本当にハルサイのスペクタクル満載です。

第1部「春の踊り」の中盤でいきなり炸裂するドラドラ(?)の強烈さは、尋常ではありません。

第2部の11連打から続く「いけにえの賛美」は、ロックンロールのようなスピード感でテンポを刻むます。

オーケストラの力量は相当なレベルで、130年の歴史を誇るアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のハルサイ初録音盤ということもあったのか、緊張感の高さが尋常ではありません。

しかし、この演奏が本当に素晴らしいと思うのは、洗練されたスタイルの上に野性味が見事にミックスされているところです。

「名曲名盤コレクション2001」(音楽之友社、1980年)では、この演奏に対して「野性味を強調するやり方とは正反対の演奏で、ごく自然にこの曲の内包する古典的側面を前面に押し出している。。。」との批評家のコメントがありましたが、このコメントには非常に違和感を感じたのを今でも覚えています。

1.2 録音 ☆☆☆☆

世の中がデジタル録音に移行する直前のアナログ録音末期のものですが、今聴いても十分過ぎるほどの優秀録音盤です。まさにアナログ録音技術の極致とでもいうべき、後世に残る名録音だと思います。

2. ショルティ指揮/シカゴ交響楽団

第2位は、ショルティの2回目の録音(1974年)です。スコアは1947年版。

サー・ゲオルグ・ショルティ指揮/シカゴ交響楽団

ショルティは『春の祭典』を2度レコーディングしています。最初がこのシカゴ交響楽団との録音、2度目はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団との1991年のライブレコーディングです。

ショルティらしさが聴けるのは、圧倒的にこちらのシカゴ交響楽団盤の方でしょう。

2.1 演奏 ☆☆☆☆

シカゴ響のブラスセクションの超絶技巧さが爆発した、まさに爆演という名前がぴったりの、凄まじいばかりの怪演です。容赦なく咆哮するホルンやトランペンット、トロンボーン群は、あまりに音量が高いので、時に弦楽器を食ってしまうほどです。

1970年代後半から80年代にかけてのシカゴ交響楽団は、まさに黄金期であり、ショルティの指揮下で、ミリタリー的とも思えるほどの緻密で精巧な演奏技術を武器に、世界のトップに君臨しました。マーラーの交響曲、ワーグナーの指輪、展覧会の絵、R.シュトラウスのツァラトゥストラはかく語りなど、多くの名盤を世に送り出しました。

特に、首席トランペットのアドルフ・ハーセス、首席ホルンのデイル・クレヴェンジャーなど、金管セクションの強力さは古今東西類を見ないほどに世界の頂点に君臨していた、といっても過言ではありません。

このショルティ盤に、音楽の温かみや柔らかさといったものを期待する人はいないでしょう。序盤から猛烈なパワーと正確無比な演奏がこれでもかと畳みかけてきます。最新の重戦車が疾走しているようなイメージ、テンポもかなり速いです。

荒れ狂う金管楽器に隠れて聴こえてくる木管楽器の音色は、悪霊や死神、魔女が唸っていいるのではと思うような錯覚を感じます。

第1部終盤の「敵の都の人々の戯れ」のホルンも、他の楽器を音圧で完全に圧倒してしまい、ファゴットなど木管楽器はほとんど聴こえないほどです。

静寂が支配するパートの多くは、さらっとやり過ごしてしまうので、好みが分かれるかもしれません。

スタイルとしては、洗練さやデリカシーといった要素を排除した、野蛮さと暴力を最大限に発揮したような、それでいてオーケストラの技量は突出しているという、『春の祭典』のコンセプトにぴったりの演奏です。

2.2 録音 ☆☆☆☆☆

デイヴィス盤と同様、アナログ録音の末期の超優秀録音盤として有名です。DECCAのアナログ録音のレベルは、個人的にはPHILIPSやグラモフォンを超えていたと思います。

マスターの状態も良いのか、CDリリース後も、XRCDやSACD盤もリリースされています。

私は、レコード、CD、XRCD盤とそれぞれ購入しましたが、現在手元にあるのはCDとXRCD盤です。

XRCD盤(左)と通常盤(右)

XRCDとは、JVCが1996年に開発した高音質音楽CDのマスタリングと製作管理プロセスのことです。音声フォーマットは従来のCDと同じなので、再生環境はCDと同じです。

ショルティの『春の祭典』XRCD盤は2005年リリースですが、技術的は、xrcd24と呼ばれる、24bitK2 ADコンバーター&K2スーパーコーディングの開発と水晶の1万倍という精度を誇るルビジウム・マスタークロックにより、アナログのオリジナルマスターからダイレクト変換してマスタリングされています。

このxrcd24盤の音質のダイナミックレンジの凄まじさはハンパではありません。

オーケストラの楽員が、パートを演奏する前に楽器の準備をするような微かな音まで聴くことが(感じること)ができます。

2017年には、ステレオサウンド社から、オリジナルマスターからDSD11.2MHz化したBD-ROM盤がリリースされています(こちらは未視聴)。


この名盤は、「誘拐」の途中など随所に演奏の凡ミスが確認できるのですが、それも含めて無修正でリリースされていることでも有名です。

現在は、デジタル技術の進歩で、いかなる演奏ミスも編集作業でキレイに修復できるようになってしまったので、ライブ録音も含めてクラシック音楽をメディアで聴くということは、化粧をした女性の顔を拝んでいるフェイクのようなものではないでしょうか。。

そういった意味でも、この名盤の無修正録音は、価値があると思います。

3. アバド指揮/ロンドン交響楽団

第3位は、アバドの2回目の録音(1975年)です。スコアは1967年版。

クラウディオ・アバド指揮/ロンドン交響楽団

アバドがカラヤンの後継でベルリンフィルの芸術監督に就任して巨匠になる遥か前の、若かりしロンドン響時代の演奏です。

「名曲名盤コレクション2001」(音楽之友社、1980年)では『春の祭典』の第1位、「クラシック不滅の名盤1000」(音楽之友社、2007年)にも選出されている評価の高い名盤です。

3.1 演奏 ☆☆☆☆

数多くの『春の祭典』の演奏のなかで、最も完成度が高く、クセがなく、すべての演奏のレファレンス的存在と言って良いかもしれません。

かといって、教条的でも模範的に無難に収まっているわけでもなく、全曲を通してスピーディでスリリングな展開が楽しめます。

これは、当時のロンドン交響楽団とクラウディオ・アバドの信頼関係が非常に良好だったことを反映していると思います。また、ロンドン交響楽団のオーケストラとしての総合力も卓越していました。

奇をてらった演出とは無縁の、原曲のオリジナリティを最大限に引き出すような指揮は見事というほかありません。

静寂を切り裂くような爆音や、殺気立つような緊迫感といった要素は薄いですが、良い意味でトータルバランスの最も優れた演奏ではないでしょうか。

3.2 録音 ☆☆☆☆

70年代のグラモフォンのアナログ録音は、平均的にレベルが高い(逆に突出した優秀録音盤も少ない)のですが、本作も無難にまとめられていると思います。

他の多くの名盤と同様、この作品もSACD-SHM盤がリマスターとして発売されています(私は未試聴です)。音の評判は良いようですが、個人的にはオリジナルマスターからのリマスターではないのであれば、わざわざマスタリング作業を重ねてSACD盤としてリリースする意味があるのかは疑問です。

4. サロネン指揮/ロスアンジェルス・フィルハーモニック

第4位は、サロネンの新盤(2006年)です。スコアは1947年版。

エサ=ペッカ・サロネン指揮/ロスアンジェルス・フィルハーモニック

旧盤は手兵のフィルハーモニア管弦楽団(1989年)でしたが、こちらはロスアンジェルス・フィルハーモニックとのライブ・レコーディングです(収録場所はウォルト・ディズニー・コンサート・ホール)。

旧盤もサロネンの若さが良い意味で爆発したメリハリの利いた名演でしたが、新盤は円熟味が加わりました。

4.1 演奏 ☆☆☆☆

サロネンはフィンランド生まれの指揮者で、永らくイギリスのフィルハーモニア管弦楽団を指揮していました。

他の巨匠と違って、レパートリーも限定的だったせいもあり、彼の演奏を聴くようになったのは比較的最近です。

サロネンの指揮は、『春の祭典』のおどろおどろしさを剥き出しにするより、木管楽器のメロディをフィーチャーした、北欧的スタイリッシュな演奏が特徴です。

スタイリッシュな演奏というと、欧州の仏や伊のオーケストラを連想しますが、ロスアンジェルス・フィルハーモニックの音色は、やはりアメリカ的で、良い意味で期待を裏切ります。

バーバリズムを排除するのではなく、スタイリッシュな演奏と力強いリズムを融合させることに見事に成功した演奏と言えるのではないでしょうか。

これは、再生オーディオ機器のグレードにも関係するのですが、バストラやティンパニの音圧は聴感以上で、しっかり低域を押し出してメリハリのある演奏になっています。

4.2 録音 ☆☆☆☆☆

残響音の豊かなウォルト・ディズニー・コンサート・ホール(残響は空席時2.2秒、満席時2.0秒)でのライブ・レコーディングだけあって、響きは非常に綺麗です。

そして、何よりも、この録音は、新譜としては、独グラモフォン(というか、買収したユニバーサル・ミュージック)からリリースされた最後のハイブリッドSACD盤となってしまいました。

ハイブリッドSACD盤なので、通常のCDレイヤーに加えて、ステレオのSACDレイヤーと5.1chのマルチチャンネルSACDレイヤーが同時に収録されています。


5.1chのマルチチャンネルSACDレイヤーを再生すると、まるでライブ会場の残響を聴いているかのような錯覚を覚えるほど生々しいです。

マルチチャンネル再生は本当に素晴らしいのですが、ステレオ再生のみを偏重してマルチチャンネルの良さがなかなか受け入れられない現状は大変残念で仕方ありませんん。

SACDのダイナミックレンジは凄まじいものがあります。

再生中に、フロントスピーカーのネットを外してウーファーの動きを見ていると、バスドラが鳴るシーンでは、スピーカーユニットが破壊されてしまうのではと心配するほど振動しているのがわかります。

5. マゼール指揮/クリーヴランド管弦楽団

第5位は、マゼールの2回目の録音(1980年)です。スコアは1947年版。

 ロリン・マゼール指揮/クリーヴランド管弦楽団

マゼールはウィーンフィルハーモニー管弦楽団とも1974年に録音していますが、こちらは当時の手兵クリーヴランド管弦楽団です。

クリーヴランド管弦楽団の『春の祭典』というと、ブーレーズの新旧録音盤があまりにも有名ですが、個人的にはブーレーズの解釈がどうも好きになれません(指揮者としてのブーレーズはお気に入りなのですが)。

5.1 演奏 ☆☆☆☆

『春の祭典』のユニークな解釈という点では、この演奏の右に出るものはないのではないでしょうか。

「奇をてらった」とまで行かないものの、リズムの刻み方、強弱の付け方、テンポの緩急まで極めてユニークな演奏だと思います。

マゼールという指揮者は、頭脳明晰で、決して情緒に流されることなく、徹底的に冷静にオーケストラをドライブしているといった印象です。

聴いていて血肉が沸き踊るというような演奏ではなく、冷徹にスコアを解釈した結果を忠実に再生しているような、少し悪く言えば「計算ずくの」演奏ではないでしょうか。

テンポは緩急の差が激しく、演奏を聴いてノリノリになるようなことは決してありません。

第2部の11連打は、極端にテンポが遅く、強烈な印象が残ります。ウィーンフィルとの旧盤でもここは同じように極端に遅いテンポでした。

様々なスタイルの『春の祭典』を聴き飽きてしまっても、マゼールのこの演奏は新鮮に感じると思います。

5.2 録音 ☆☆☆☆☆

優秀録音盤で有名なTELARCレーベルのデジタル録音初期の秀作です。

ダイナミックレンジがあまりにも広く、時として過剰ではないかと思えるほどです。有名なチャイコの1812年盤と同様、レコード再生では、アームがすっ飛んでしまったという逸話があるようです。

小型デジタルアンプで再生したところ、バスドラやティンパニーの強打で見事に出力がクリップしてしまいました。

SACDのステレオモードとCDのデュアルレイヤー盤になっています(マルチチャンネルは収録されていません)。CDレイヤはFLAC/WAVに変換して保存すると、雑音が乗ってしまいます(原因不明)。

6. メータ指揮/ロスアンジェルス・フィルハーモニック

メータの『春の祭典』は、ニューヨーク・フィルとの新盤(1977年)がありますが、こちらは旧盤(1969年)のほうです。スコアは1947年版。

メータ指揮/ロスアンジェルス・フィルハーモニック

実はメータの『春の祭典』の演奏は全部で6種類あるそうですが、すべてを確認することはできませんでした。それだけこの曲を得意としていたのでしょうか。

DECCAのマルチマイク収録技術が確立された頃の録音ということで、60年代とは思えない明瞭な録音にまず驚きます。

6.1 演奏 ☆☆☆☆☆

メータは、ヴァレーズなど現代音楽のレパートリーを得意とするだけあって、他の指揮者とは違う独自の解釈に基づいたユニークな演奏となっています。

録音当時、メータは弱冠33歳でしたが、ロスアンジェルス・フィルの音楽監督に就任してすでに7年目だったようで、オケとの信頼関係は抜群だったようです。

メータの輝かしい経歴は、23歳(!)にしてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してデビューし、大成功を収めたことに象徴されます。

テンポは聴いたことがない程速くアグレッシブです。体感的には『春の祭典』演奏中最速ではないでしょうか。速過ぎてオーケストラが大変な思いをしそうですが、流石ロスアンジェルス・フィルハーモニックとの息はピッタリという感じですね。

緩急のテンポの切替えも独特で、『春の祭典』のエキゾチックな雰囲気が非常に魅力的な演奏で、第1部の序盤「春のきざし」から一気に引き込まれます。

ひょっとすると、今回のベスト10ランキングのなかで聴いていて一番楽しく聴ける演奏かもしれません。

6.2 録音 ☆☆☆☆

前述のとおり、この優秀録音が1969年と古いことに驚愕させられます。60年代のクラシック音楽の録音のなかの最高峰かもしれません。それくらい良い音です。

もちろん、近年のデジタル録音のようなダイナミックレンジはありませんが、高域まで自然に伸びる感じは、聴いていて心地良いです。

7. ヤルヴィ指揮/シンシナティ交響楽団

NHK交響楽団の首席指揮者としても有名なヤルヴィの演奏です。スコアは1967年版。

パーヴォ・ヤルヴィ指揮/シンシナティ交響楽団

カップリングされているニールセンの『交響曲第5番』の評価が高い反面、『春の祭典』のほうの評価が今一つなので、このCDはニールセンの『交響曲第5番』の代表的なCDのように扱われています。

レーベルはTELARCです。TELARCとシンシナティ交響楽団の組み合わせというと、かつてアナログ時代に悪名を馳せた?チャイコフスキー『1812年』を連想させられますね。

7.1 演奏 ☆☆☆☆

ヤルヴィの解釈は、『春の祭典』のバーバリズム的要素を強調することなく、この曲をスタンダードなクラシック作品としてごく自然な形で再現していることに尽きます。

かつては難曲中の難曲だった『春の祭典』も、今ではアマチュアオーケストラが演奏する時代です。もはや『春の祭典』だけを特別視することはないのかもしれません。。。

そういう意味で、1962年生まれのヤルヴィの解釈は、今後の『春の祭典』のレファレンスになるのではと感じられます。

演奏時代は、極めてオーソドックス。どこにも奇をてらった点は見当たらず、管楽器や打楽器が凄まじい音量で炸裂するようなスペクタクル的要素はぐっと抑えられています。

シンシナティ交響楽団の知名度は決して世界のトップクラスのオーケストラではありませんが、現代の演奏技術の底上げで、難曲『春の祭典』もいともあっさりと演奏されているのも驚きです。

抑えるべきツボはすべて抑えてあるという点で、ヤルヴィ盤は、凡庸な演奏とは次元の違う完成度の高い隠れた名演では?

ベスト3に挙げたアバド/LSO盤の現代版とでも言えるでしょうか。

世間の評価が低いのは、あくまで過去の巨匠の名演の呪縛に捉われているからかもしれません。

7.2 録音 ☆☆☆☆☆

TELARCのハイブリッドSACD盤で評価しました。

個人的にはTELARCのSACDの音は好みで、クラシックやジャズなど何枚か所有しています。

TELARCのSACD

マゼール/クリーブランド響もTELARCのSACD盤でしたが、こちらはマルチチャンネルも収録されています。

サロネン盤もそうですが、マルチチャンネルはステレオとは違う臨場感が楽しめるので、個人的には非常に気に入っています。

ヤルヴィ盤のSACDは、オーディオ的にももちろんトップクラスです。収録場所はオハイオのシンシナティ・ミュージック・ホール。添付のライナーノーツに録音時の使用機材など詳細が明記されていました。

録音機材一覧

マイクはノイマンのダミーヘッドバイノーラルステレオマイクのKU-100を使用しています。

ノイマンのKU-100で収録した音源は、ヘッドフォンで聴くと、その再現性の高さに驚愕するほどの音です。

ほかにゼンハイザーのマイクが数本リストにありますが、おそらくサラウンド音源用の反響音を拾うためでしょう。

ステレオセットの再生だけでなく、ハイエンドのヘッドフォンで聴くと、ノイマンKU-100録音の真価が発揮されると思います。

8. ドラティ指揮/デトロイト交響楽団

ドラティ晩年の名盤です。ドラティは『春の祭典』を何度も録音していますが、これが最も新しい録音です。スコアは1947年版。


第16回 1978年 レコードアカデミー賞 管弦楽曲部門受賞。グランプリ・デュ・ディスク(仏デスク大賞)受賞。発売当時は、『春の祭典』のニュースタンダードが生まれたと話題になりました。

ドラティは、ハイドンの交響曲全曲を録音した物珍しい指揮者という程度の知識しかなく、デトロイト交響楽団に至っては、聞いたこともないマイナーなオーケストラだと思っていたので、このレコード発売当時、全くのノーマークでした。

8.1 演奏 ☆☆☆☆☆

数多くある『春の祭典』のなかで、最も「カッコいい」演奏です。速めのテンポで管楽器も弦楽器もソリッドな音で迫力があります。

ドラティは1906年生まれなので、レコーディング時には70代の老齢だったことが意外なほど、清々しくエネルギッシュかつスリリングな演奏です。

デトロイト交響楽団の部員も当時は若かったのでしょうか、ドラティはこの無名のオーケストラから驚くほど高い演奏技術と情熱を引き出すことに成功しています。

第2部の11連打も、実にカッコよく決まっています。ここからの怒涛のエンディングも、スピード感があって個人的には非常に好みです。

この演奏を聴くと、後世に残るクラシックの名盤というのは、必ずしも世界的に超メジャーな指揮者や超一流オーケストラだけではないと痛感しました。

8.2 録音 ☆☆☆☆☆

鮮烈な録音です。悪く言えばドンシャリ型ですが、ダイナミックレンジも広く、アナログ時代の技術の粋を集積したような名録音ですね。

これは推測ですが、人生で最も多感で聴力もある青春時代に聴いた音というのは、その本人にとって良い音のレファレンスになるのではないでしょうか。そういう意味では、私の場合、この演奏が理想的な録音だと思います。

9. ゲルギエフ指揮/マリインスキー劇場管弦楽団

名実ともに世界の巨匠の頂点に立つワレリー・ゲルギエフの『春の祭典』(1999年)です。スコアは1947年版。

ゲルギエフ指揮/マリインスキー劇場管弦楽団

ジャケットにはキーロフ管弦楽団とありますが、これはマリインスキー劇場管弦楽団の旧称です。

2001年レコード・アカデミー賞銀賞受賞、新編名曲名盤300(音楽之友社、2011年)では、ブーレーズの名盤を抑えて堂々の1位を獲得しています。

9.1 演奏 ☆☆☆☆☆

ストラヴィンスキーはロシア生まれの作曲家なので、彼の生み出した『春の祭典』を最も忠実に演奏できるのが、ゲルギエフのようなロシア人指揮者であることはごく自然なことかもしれません。

この演奏を聴くと、改めて『春の祭典』の正統な演奏表現は、同じ血筋であるロシアの指揮者とオーケストラしかできないのではと感じてしまいます。

これまで数十年に渡ってあらゆる演奏がなされてきた『春の祭典』という曲に、今更ながら新しい息吹きを与えるのは、まさにホームフィールドアドバンテージを持つゲルギエフとマリインスキー劇場に与えられた特権のような気がします。

冒頭から終幕まで、これまで聴いたことのないメロディーラインやテンポの変化が随所に現れます。スパッと綺麗に終わらずに後に残るようなクライマックスもユニークです。最初にこの演奏を聴いた時には、最後まで新鮮な驚きに満喫しました。

解釈があまりに奇抜と捉えられるかもしれませんが、ここまでロシアの匂いを感じさせる演奏は滅多にないのも事実です。

個人的には、果たしてこの申し分のない演奏が、何10年も続けて聴くに堪えるだけの価値があるか?に尽きると思います。

9.2 録音 ☆☆☆

純オーディオ的な観点からは、このCDは特筆すべき点はあまりありませんが、(他のゲルギエフの作品と同様に)土臭い広大なロシアの大地をイメージさせるような雰囲気を見事に捕えた録音だと思います。

10. ドゥダメル指揮/ベネズエラ・シモン・ポリバル・ユース

南米ベネズエラ出身の若き天才指揮者ドゥダメルの演奏です。スコアは1967年版。

ドゥダメル指揮/ベネズエラ・シモン・ポリバル・ユース

南米のクラシックというと、作曲家のヒナステラくらいしか思い当たりません(キース・エマーソンが、ヒナステラのピアノ協奏曲第1番をアレンジしてELPのアルバムに収録したのを知っていた程度です)。

1967年生まれのドゥダメルは、100年に一人の逸材とも言われる天才指揮者ですが、この『春の祭典』は期待通りの出来栄えで一般の評価も高いです。

10.1 演奏 ☆☆☆☆☆

第1部序章のただならぬ雰囲気から一気に引き込まれてしまいます。オーケストラの弦楽器群の技量の高さにまず唖然。技術的にはもはや世界のオーケストラはどこも遜色ないレベルに辿り着いたのではないでしょうか?

力強い金管セクションが加わると、その驚きは叫喚に変わります。これってかつてのシカゴ響のホーンセクションのレベルと遜色ないのでは。。?

「春のきざし」に入るとゾクゾク感はいよいよ増すばかり。こんなエキゾチックに盛り上がる『春の祭典』は滅多にありません。

しかしドゥダメルの指揮はとても上手いです。一気呵成というより、徐々にクレッシェンドに盛り上げていくテクニックは流石です。

第1部の終わり方がこれまた超ハイスピードなのですが、重量級の戦車が爆走するというより、F1レーシングカーがコーナーに有り得ないスピードで突っ込むような感覚で目が眩みそうな感じです。

11連打は、ティンパニとバスが驚くほど力強く響き渡ります。この点でも大満足。

全編を通して感じられる煌びやかさは、南欧のものとも、ロシアのものとも違い、まさに南米的と呼ぶべきものでしょう。きわめて異質な演奏であることは間違いありません。

10.2 録音 ☆☆☆☆☆

木管と金管のバランスが良く、臨場感もタップリ。秀逸な優秀録音です。ホールの残響音もタップリなのですが、それで音が濁ることはありません。むしろ楽器の分解能は怖ろしいほど高く、コンサートホールの最上席でもこんな音場は体験できないと思います。

11. まとめ

以上、『春の祭典』名盤聴き比べ、名演奏・優秀録音ベスト10ランキングでした。

演奏・録音とも5つ星☆☆☆☆☆のドゥダメル盤が、ランキングの10位になっているのは、単に十分に聴き込んでいないという理由だけです(笑)本当はアバド盤の代わりにベスト3に入れても良かったくらいです。


ブーレーズのフランス国立もクリーブランドとの新旧盤もランキングから外れているのも納得いかないと思いますが、あくまで個人の感性なのでどうしようもありません。

ベルリンフィルとウィーンフィルという2大オーケストラの演奏が入っていないのも単なる偶然ではないかもしれませんね。。。

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